#01 デジャ・ヴ [セリス]
posted by GEM at 2005年07月27日 19:50
……?
おかしい。何がおかしいのか分からないけど、なんていうのかな。
さっきからずっと、収まりの悪い違和感? が付きまとってる。
いつも通り、気乗りしない狩りに半ば強引に連れて来られ、そしていつも通り、私の「癒し」の前に次々に崩れていくモンスター達。
いったい、何だろう? なんて思ってた次の瞬間。
背後から後頭部に強烈な一撃が来た。
「痛っ!! このクソ[エミス]ーー!!」*1
油断したわ。
羽帽子の下の涙目の私。投げつけられた氷塊で帽子の形も気持ち崩れたんじゃないかしら。
それにこの感じだと、私の形のいい頭にコブになってるのは間違いないわ。
んもう! ゆるさない!
私は修羅の形相で振り向く。威嚇だけで呪い殺すほどに……
……あれ? なんか変だ。
?
なんでだろう?
見られてる?
冷たい視線?
憤怒?
絶望?
疑念?
哀願?
歪んでるっていうのかなぁ……
かといって、理解できなくもないし、愛も感じるような……
なんなのこの視線。うまくいえない。
でも……ここに天使がいれば、天使はその視線の主にきっとやさしく囁く。
「それは神の御心に背くこと」
!?
耳元ではっきりそう聞こえた気がして、びっくりして周りを何度も確認する。
右にも……左にも……後ろにも、そして上にも、天使なんていないわ。
いつも通りの……仲間が……仲……? 仲間ってなんのこと?
あれ? 私、今、何してるんだろう?
やっぱり変だわ。なんか夢の中にいるみたい。
なんていうか、すごく客観的っていうか、世界を別の次元から見てるみたい。
時間がゆっくり進んでるような……誰かに変な薬でも飲まされたのかしら。
気持ち良いような気もするし、気持ち悪いような気もする。
ふと視界に景色が飛び込んできた。そのわりには遠いわね。
モンスターと戦うパーティーがいるわ。
前衛の戦士と騎士、遠くから見てもかなり強い。
それにしても凄いわね。
武器のことは分からないけど、いかにも重そうな斧をまるでシルクの旗のように軽々と振る戦士。それが決して軽い一撃じゃないのはモンスターのぶっ飛びようを見れば分かる。
そしてあの騎士。素人から見たら邪魔にしか思えないような長~いランスを羽根ペンのように操り、モンスターの死刑執行書にサインでもするかのよう。そして、確実に執行していく。
この二人、ソロでも平気っぽいな。というか、熱くなってるっていうの?
パーティーなのに仲間そっちのけで視界に入ったモンスターを片っ端から始末してる感じ。
騎士はパーティーから離れだしたわ。あからさまに獲物を求めてるわね。
あ、もう一人いる。
二人の影から申し訳なさそうにうろちょろとパンチやらキックやら繰り出してる女の子。まるっきり当たってないわ。たまに当たってモンスターに睨まれるとビビッてる。あの子、やる気があるないじゃなくて、なんかやらされてるというか、かわいそうに見える。
どうやら「お勉強*2
」させてもらってるみたいね。よく見るとティアラ*3
を頭に載せてる。ちょこんって表現がぴったりで、なんていうのか着こなせていない感じ。でもあれがなければ今頃死体ね。
それにしてもどこかで見たことがあるような奴らね。遠くてよく分からないけど。
数歩後ろには二人の聖職者とその聖職者を守る盗賊さん。
一人の聖職者はパーティーの支援のようね。何かを唱えるたび、メンバーが光に包まれてる。ん~、でも『生徒さん』がいるから、どうしても補助が生徒さんに手厚くなってるようね。
で、もう一人の聖職者……何してるのかしら? ぼーっとしてるわ。そんなことしてると……
「・・! ・・・・・!」
盗賊が何か叫んでる。よく聞こえないけど、口の動きは「おい! なにしてる!」って見えた。そりゃそうでしょうね。
それにしてもこの盗賊の体裁きや攻撃の正確さ。見た目の軽そうな一撃とはうらはらに、叩き込む全てが急所。モンスターのどこが急所かを知ってるのと、常にそこに一撃を叩き込むのは次元が違う。こいつもかなり強いみたい。
でもね、いくら高レベルの盗賊でも、自分から身を守ることもせず闘うこともしない人間を守るのは大変。ましてやここは氷の城*4 の十階*5 。
あ。盗賊がさらに後方から来た[アナカム]一体と[マカイラ]三体に絡まれたわ。一対一に持ち込んで確実な一撃と迅速な離脱による各個撃破が基本の盗賊、俊敏な動きを確保するために身につけているものもあまり強力なものじゃない。多対一の戦闘は、あまり期待しちゃいけない。
まずいわね。あのボケッとした聖職者にも別の[アナカム]が背後から弓を引き絞って狙いを定め、さらに別の[マカイラ]の二本の剣が血を求めて聖職者を生贄に選んだみたい。聖職者ならなんでさっさとホーリービジュア*6 を撃たないのかしら? MP切れ? でも、あの左手に持ってるのはリンゴ*7 よね。だったらさっさと食べないと……
戦士はこの聖職者に気づいたみたい。生徒に促して二人で聖職者の方へ走り出したわ。ただ、残念、ちょっとだけ遠いわね。あれは間に合わないわ。騎士の方はさらにパーティーから離れすぎてたみたい。いや戻ってきたのかな? っていうかその背後に山ほど[マカイラ]が……。
あぁ、なるほど。釣ってきたのね*8 。
仕方ない。ここはひとつ。おせっかいだと思うけど助けてあげ……?
あれ? 体が……動かない……というより……体が……ない!!
!
突然、違和感が明らかな異変になった。
私は、突然遠くから見ていたはずのパーティーの、ボケッとしてる聖職者に飛び込んだ。
いいえ、飛び込んだというより、私の目にしていた映像がその聖職者を一気にズームするように映像が私に迫ってきた。
そして、映像がその聖職者に覆われた瞬間
―――――――――――――――
私は、まるで悪夢から覚めるかのように突然我に返った。
体がない!
なぜだか知らないけどそんな得体の知れない恐怖が直感的に脳裏を駆け巡り、私は咄嗟に視線を自分の体に向けた。
あ。なんだ。あるじゃない。いつも通り最上位の聖職者の正装に包まれたナイスバディが。足が青い床についている感覚もしっかりある。ふと両手を見た。ちゃんとあるわ。右手にはいつもの愛杖、スリーピー君*9 。マスコット人形もちゃんとついてる間違いなく私の物。そして、左手にはすっぱいリンゴ。
まぁ、そりゃそうよね。体がなくなるなんてどうかしてるわ。悪い夢でも見てたのよ。……そう……え?
夢? ……困ったわ。私は一体何をしてるの。一体何に驚いたのか覚えが全くない。
私は、何で両手を見てほっとしてるの?
とここまでほんの一瞬。そして例によって次の瞬間。
「っ避けろ阿呆!」ジンが叫ぶ。
私の目の前に……[マカイラ]が二本の剣を振り下ろそうとしている! 一体何事……?!
そうだ。思い出した。(思い出したってのも変だけど)私は狩りに来てたんだ。
えっと、ついさっき[エミス]に背後からどつかれて……あぁ、だから私フラフラしてるんだわ。神官様の祝福を受けてなければエミスの一撃で脳震盪で気絶だろうなぁ。
っていうかそんなこと言ってる場合じゃない! 体が咄嗟に戦闘モードに入る。でも……なんてこと! 目の前の[マカイラ]はよほど私が欲しいらしいわね。しかもまるで勝ち誇ったように剣を振り上げてる。いつもなら……[マカイラ]なんて私に近づくことも出来ないのに……! だめだ。間に合わない。
「セリスー!!」
[マカイラ]の背後で斧を振り上げたクリガンが私の名を叫んだ。
でも、[マカイラ]の二本の刀の方がクリガンの斧より少し早かったみたいね。
私は杖で受け止める動作さえ出来ず、かなり派手にVの字に切り伏せられた。法衣もろとも肩から股間まできれいにね。モンスターにとっては関係ないんでしょうけど……デリカシーのかけらもない奴だわ。
状況は……あまりにもスプラッタなのと、この私が[マカイラ]如きの剣に斬りつけられた! なんて癪に障るから省略するけど、痛いなんてもんじゃないのは言っておくわ。受けた衝撃に対する本能的な反射なのか、私の体はビクンっと本能的に後ろへ飛び退いた。というか逃げた。いや、斬撃に弾かれただけかも。
とにかく膝ががくがく笑って、何でまだ意識を保って立っているのか自分でも不思議なくらいフラフラ。それでもなんとか視線を上げると、私を三枚におろしそこなった[マカイラ]はクリガンの斧で粉砕された。
私としたことが……やっちゃったというかやられちゃった。かなり強烈な一撃ね。アレ風に言えば残りHP二か三ってとこよ。とにかく……か……回復を……。私は薄れる意識に文字通り必死の抵抗を試みてリカバリを……
唱えられなかった。
背後から放たれたのだ。[アナカム]の氷の矢が。ただでさえスプラッタ状態になった私の元セクシーボディのお腹だったところから、内臓と一緒に血に染まった矢が四十センチほど突き出してる。
「……元気のない矢ね。いっそ突き抜けて欲しいもんだわ」
そう言ったのが最後だったと思う。
あと……覚えてるのは……
クリガンの怒号、妹の間一髪で間に合わなかったホーリービジュア詠唱、
スパイダーウェブ*10
をモンスターに掛けまくるジン、
生徒さんの悲鳴……まぁ、こんなスプラッタ見ればさぞかしびっくりするでしょうけど、冒険者ならそんなにびっくりしなくても?
そして、「信じられない」って顔で私の方を見ながらそれでも急いでパーティーに騎士補助を掛けなおすリーダー……
自分としては最後にありったけの力を振り絞って絶世の笑顔をみんなに贈ったつもりだけど、うまくいったかしら。
膝が折れ、派手に血を吹き出す。私ったらなんてかっこ悪い。[マカイラ]やら[アナカム]なんかにやられるなんて。しかも二本の刀を上段に振りかぶるような頭の悪い攻撃と背後からの矢……あ~あ、くやしいなぁ。リンゴが左手から開放されコロコロと逃げていく。血に染まった私のスリーピー君に体重を預け、なんとか堪えようとしたのも束の間、ついに瞼が落ちてきて視界は真っ暗に。そして、左側に倒れたらしいけどもう痛みなんて麻痺しちゃってなかった。
あぁ、どうやら私、死ぬっぽいわ。みんな強いからあの程度なら何とかなるよね。あとは走馬灯をクリアすれば次は天国かしら?
……この世界で冒険者がそうそう思うように死ぬことができれば、だけどね……
*1: []カッコで囲まれているモンスターはアンデッドモンスター。ゲーム中の表記に倣っている。
*2: 初級者が上級者と行動を共にして戦う状態を指している。ゲーム中で言うところの「寄生」
*3: ここではバシレウスティアラ。ゲーム中においても装備者の体力などを大幅に増強する。
*4: レビアのさらに北にある。レビアの位置についてはap1.マイソシアの都市(資料)を参照のこと。
*5: 氷の城の最上階。この先に亜空間や監獄などがある。
*6: 回復魔法、体力を回復する。アンデッド系モンスターには攻撃手段となる。
*7: マジックポイントを回復する特殊なアイテム。
*8: より多くの戦闘経験を積むために、辺りにいるモンスターを自分をえさにして引き連れてくること。
*9: 正式名称スリーピーヒーラー。上級聖職者の装備できる杖。装備者の知識能力を増幅する。
*10: 盗賊の技、対象の動きを封じることが出来る。
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#02 帰還 [セリス]
posted by GEM at 2005年07月28日 11:28
「蘇生完了! 姉さん、大丈夫!?」
何の前触れもなく突然私はこの世にいる。いきなり全ての準備が整った舞台にヒロイン役で投げ出されたようなそんな感じがする。そして、すでに物語の前振りは終わっていて……私もやるべきことは全て分かっているような感じ。
瞬時に、今の舞台のシーンを理解する。
自分はもはやビジュアやリカバリなどの回復を受け付けない状態、つまり死に至り、そして蘇生*1
を受けて再びこの世に蘇ったと知るのだ。瞬時に悟ると言ったほうがイメージとしては近いわ。
両袈裟切りに遭って尚且つお腹から矢が突き出してたなんて嘘のように傷跡なんて一つもなく、引き裂かれた法衣だって元どおり。私の血で染めてあげたはずの床も元通りの冷たい青。
私は憂いを帯びた表情で「また死ねなかったわ……」なんて台詞を思い浮かべたけど、ぶっつけ本番は難しいものね。迂闊にもありきたりの反応しか出来なかった。
「ごめん。みんな無事?」
そういって、妹に抱えられてた上体を起こし周りを見渡す。ところがこれまた、全然無事じゃない。要するに、パーティーはかなりピンチだ!
妹は私が起き上がったのを確認するとすぐさま立ち上がりホーリービジュアを詠唱する。
リーダーの騎士フィオはともかく、クリガンとジンはHP*2
をひっきりなしに回復してやらないとすぐに死んでしまいそう。
二人が弱いわけじゃなくて、リーダーが釣り*3
すぎた&状況が強烈に悪化したためだ。
ちなみに、生徒さんのミーナはとっくにスプラッタよ。……しかし……。変ね。ちょっと惨すぎるわ。……とりあえず見ないようにしよう。
「姉さん! 早く!」
で、「状況が強烈に悪化」を簡単に説明すると、何のことはない、ウェンディゴハイブを割り逃げされたっぽい。鬱陶しいことをする奴もいるものね。
ウェンディゴハイブの中には[ゴーストフリックル]というモンスターがいるのはご存知の通りね。クリスタルのような、ガラスのようなウェンディゴハイブ。割れば中のそれが出てくるのは当たり前のこと。厄介なのは、[ゴーストフリックル]が十体近く一気に出てきて、そいつらが一斉にかなり強力な遠距離攻撃を仕掛けてくる。
妹のセシリアも[ゴーストフリックル]の攻撃に晒されながら何とか生きてるのは冒険者の為に特別に作られたお肉*4 を食べまくってるから。このお肉は食べた瞬間から体力を回復できる。しかもどれだけ食べても太らない! おいしくないけどね。他のメンバーもこの肉を食べまくりながら応戦してる状態だ。
……っていうか。あれ? フリックル多すぎない?
まぁいいわ、上等よ!
「フリックルを黙らせるわ!」
私は敵と味方の集団のど真ん中にホーリービジュア*5
を唱えた。
このフロアの敵は、全てアンデッドだ。ビジュアなどの回復系の魔法は負の存在であるアンデッドにとっては脅威でしかない。
そして、私は魔術師と同じように知恵よりも知識を選択した聖職者。私のホーリービジュアは、ことアンデッドを相手にする限り非常に強力なの。さらに、ホーリービジュアの影響範囲にモンスターも含めて対象がいればいるほど強力になる。
ほとんどのフリックル達がちょうど発動地点の右の方にたっくさんいたので*6 フリックル達は一撃でほぼ殲滅された。その他アナカムやらマカイラも影響範囲にいた奴らはほとんどが即崩れ落ちた。たくさんのアンデッドに囲まれた時のホーリービジュアはどんな攻撃よりも強い。*7 さらに同時に、味方の体力は一気に回復した。これも知恵より知識を選択した聖職者ならではだ。
敵の戦力ががた落ちになった瞬間、セシリアは間髪いれずにメンバーに補助魔法を掛けていく。
「よし、見える範囲だけ掃討しよう。離れないでね。ミーナを蘇生したら一旦帰還するから」
フィオは言いながら目の前にいた敵にピアシングスパイン*8
を放つ。敵が崩れ落ちた。
袋叩きにされていた状況から一変してあらゆる聖職者の補助を受けたクリガンとジンは、まるで鬼神のように、見える範囲の敵を蹴散らした。私もリカバリ*9
で二人の殲滅速度を上げる。
「帰還するのか?」
ジンは最後の敵が崩れ落ちるのを見ながらそう言うと、振り返りながら短刀「カチハプン*10
」の「血糊」を振り払った。といっても、ここでは血糊じゃなくて氷のかけらがぱらぱらと飛ぶだけ*11
なんだけど、これはジンの癖だ。
「そのほうがいいだろう。今の非常事態で肉を予定以上に消費した。それに肉が足りたとしても、セリスの調子が悪そうだ」
でかい図体のくせにそれを感じさせない足運びのクリガン。いつの間にやら私の背後。しかも言いながら私の右脇から手をしのばせ、私の右胸を下から包むように触れてくる。
「大丈夫か? 派手に乳に切りつけられてたぞ。いつものお前なら考えられん」
まったく、気安く触ってくれるわ。私はクリガンの手を左手で胸からそっと払う。同時に愛杖スリーピー君を後方にいるクリガンの側頭部に叩き込む。まぁ普通に斧で受けられちゃうし、戦士に聖職者の攻撃なんてなんのダメージを与えられないけどね。
「レディーに乳って言わないの。それに斬りつけられたのは胸じゃなくて鎖骨からよ」
「似たようなもんだ。アンデッドモンスターがお前に斬りかかったのを見たのは何年ぶりかってことだよ」
それもそうね。ほんとにその通りだわ。一体、私どうしてあんなことになったのかしら。気がつけば目の前に[マカイラ]なんて、ムカツクったらない。
「グレートリザレクション!」*12
背後からセシリアの詠唱が聞こえ、やわらかい、しかし神々しい光がフロアを照らした。そして、光で全てを見ることは出来ないが、三つぐらいに引き裂かれていたミーナの体が元通りになっていく。
「しかし、いつ見ても……掟破りというか、信じられない魔法だね。大体、なんで着てるものまで直るのさ」
一応リーダーらしく回りに気を配りながらフィオが呟くと、光が消えミーナを抱え上げたセシリアが応えた。
「信じるのは私達に任せてよ。ねぇ、姉さん」
「……そうね」
「……姉さん? どうしたの?」
「うん……どうしたのかしらね」
そう、自分でもわからない。聖職者に就く者にとっては蘇生は信じられない魔法じゃない。「信じる魔法」。
当たり前のことなのに……
「肉ならまだあるんだが……セリス、今日はやっぱりやめとくか?」
ジンが彼の守護動物の卵*13
を見せながら言う。そういえば、ジンは盗賊の癖に山ほど物を持ち運ぶんだった。守護動物を使ってね。いや、盗賊だからこそ山ほどの荷物を持ち歩くのかな。
私が答えるより早く、セシリアが応える。
「ジン、無理みたい。ミーナちゃんが……」
それを聞いた全員がセシリアに振り返り、そしてセシリアに必死にしがみつくミーナを見た。フィオがセシリアとミーナに近づき、二,三声をかける。そして三人がもう一度私を見る。
「? ……どうしたの?」と私が言うのをほとんど無視して、しかし私から目を離さず、フィオがみんなに告げた。
「帰ろう」
あれ? 気のせいかな。 ミーナ、私を見て怯えてない? ちらちらと私を見て、ちょっとでも目が合うと小さな悲鳴を上げてさらにセシリアにしがみついてるような。そして……
私の様子を見ているフィオとセシリアの目。何か私に言いたいことがありそうね……
「ミーナ。まずは君を家に送るよ。サラセンに飛ぶ。みんな準備いいかい?」
フィオはメンバーに告げた。
「うん。飛んで」
セシリアは私から目を離さずに応えた。
すでに記憶の書*14 の目的のページを開いていたフィオは、セシリアに頷いて記憶の石*15 を取り出した。
*1: 聖職者の魔法で死亡した冒険者を蘇生することができる。
*2: ヒットポイント。体力のこと。体力0は死亡状態。
*3: パーティーの元に敵を連れてくること。多少強い敵でもこれを協力して倒すことで全員が強くなっていく。
*4: 冒険者必須アイテム、一定量の体力を即時回復する。
*5: ホーリービジュアは発動した地点だけでなくその周辺にも影響を与える範囲魔法。
*6: 回復魔法によるアンデッドの攻撃は、発動地点の右にいる対象ほど強烈な威力となる。
*7: 影響範囲に対象が多ければ多いほど威力を増す。また、左から右の順で威力が倍々に上がっていく。
*8: 騎士の技。槍で敵の体を貫通するように突く。
*9: 聖職者の回復魔法、狙った単体のみに影響し、アンデッドが対象であれば攻撃手段となる。
*10: 中~上級盗賊の主力武器
*11: ここで相手にしている敵は氷のモンスターか霊体である。
*12: 聖職者の蘇生魔法。
*13: ゲーム中では「孵化した豪華な卵」というアイテム。ペット及びペットに持たせたアイテムを卵に戻して持ち運べる。
*14: 五箇所の場所を記憶しておける。その場所に移動するには記憶の石が必要。
*15: 記憶の書に記憶された場所に移動する際に消費する触媒。
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posted by GEM at 2005年07月28日 11:29
サラセンの町外れ。おもむろに空間が歪む。同時に短く「ヴォン」と低い音。次の瞬間、そこに私達六人の姿が現れた。
「むお。着いたか。『書』の移動ってのは何度やっても慣れねえなぁ」
「クリガン……タダ乗りの癖に『書』だといつも言うわよねぇ。筋肉達磨はあそこから転がってきてもいいのよ?」
「おいおいセリス、そういう問題じゃ……」
「二人ともちょっとまって。まずはミーナだ」
フィオに遮られる。そのフィオとセシリアに支えられたミーナ。さっきよりは落ち着いたらしいけど、それでもまだ怯えているよう。
「ミーナ……かわいそうに……」
私も心配になりミーナに声を掛けてあげようと近づいた瞬間……
「……ヒッ!」
ミーナがビクッと体を震わせ明らかな拒絶反応をした。……やっぱり私なのね。
「姉さん」
セシリアに目で促され、私は釈然としないながらも下がった。
フィオが続ける。
「セリス、事情は後で話すよ。とにかくまずはミーナを……セシリア、ジンと一緒にミーナを送ってあげて」
「わかったわ。フィオ君、姉さんのほうはお願いね。さぁミーナちゃん、行きましょう」
「じゃ、ちょっと行ってくる」
ジンはフィオと入れ替わりにセシリアと二人でミーナを支え、そして町の中心へ向かって歩き出した。
「ジン! がんばれよ!」
クリガンがニヤニヤしながら言うと
「……うるせぇ!」
と応える。照れてるわ。盗賊の癖に。(関係ないか)
「なぁセリス。セシリアはまだわかってないのか? ジンが本気だっての」
クリガンったら……そういう下世話なお話が大好きなのね。
「ありえないわね。あの子は並みの鈍感じゃないの。真正面からジンに好きって言われても平気な顔してジンの両手を取って『私もよ。頼りにしてるわ』って応えたらしいわ」
「は? そりゃ相思相愛じゃねぇか」
「あなたがセシリアに同じこと言ってみたら分かるわよ。セシリアにとっては人類皆大好きな『お友達』なんだから」
クリガンは目頭を押さえながら呟いた。「……ジン。不憫な……」
まぁ、こういう話はこの辺にしておきましょう。私はフィオに向き直る。
「ねぇフィオ。お話聞かせてくれるんでしょ?」
「うん。ただ、先に父に会いに行かないといけないんだ。三時間後ぐらいにルアスの酒場に来てくれないかな?」
「まぁ、フィオったら珍しくじらすわね。わかったわ。じゃ……クリガン。これから……どう?」
「セリス、悪いな。ちょっと忘れちまってた用事があるんだ。おれも余裕があったら後で酒場に行くからよ。その後でな」
なんてこと! 筋肉と性欲の塊クリガンが私の誘いを断るなんて……。
「どうしたのよ? 滅多にないチャンスだと思うけど?」
「そう思うんだがよ、忘れてた用事ってのも年に一回しかないんだ」
「……家族のとこね?」
「わりぃな。セリス。息子の誕生日だった」
「よくもまぁそんな日に氷の城に私達を誘ったわね」
そうだったわ。考えて見れば私は今日はスオミへ買い物に出かけようと思ってたんだから。
それをこの筋肉達磨に「大丈夫、俺たちなら余裕だって。修道士見習いをちょちょいと寄生させてやるだけだ。それにこのパーティーにも修道士を入れたいってみんなで言ってたじゃねぇか。育ててやろうぜ? な?」とか言って渋々連れ出されたんだ。私以外は乗り気だったらしいんだけどね。
こいつ多分、ミーナが好みなだけだわ。妻もある身で私と不倫までしてるのに……まったく。
「最初はミーナもノリノリに見えたんだがな。あんな様子を見ちまったら……ミーナは当分諦めたほうがよさそうだ」
「当たり前よ。この馬鹿。当分じゃなくて永遠でしょ」
「え? 諦めちゃうの? せっかく来てくれた修道士じゃないか」って、フィオ……あなたもある意味ウルトラ天然ヴォケね。
まぁ、まとめるか。
「フィオ、ミーナは今日から私達のメンバーよ。あの子が今後もこのパーティーに残りたいならね。それからクリガン、オーフェン君の誕生日なんでしょ? だったら早く行かないと。ミルレスゲート*1
あげよっか?」
「いや、あるからいいよ」
「そう。じゃ、私も行くわ。スオミで素敵な帽子を見つけてずっと目をつけてたんだから。売り切れだったらクリガン、許さないわよ?」
「なんでオレなんだよ!」
クリガンの抗議を適当にあしらって、私は二人に挨拶をした。
「じゃ、三時間後、ルアスでね。クリガンは無理してこなくていいわよ。家族サービスしてらっしゃいな」
「ああ。あとでな」
「じゃ、僕もルアスへ」
三人がそれぞれ自分の目的地へ飛んだ。
クリガンは(多分)愛する家族が待つミルレスへ。
フィオはルアス第一騎士団団長にして彼の父、ルクセンの元へ。
そして私は……お買い物♪
密かにマインドヒーラー*2
なんてゲットしちゃったし、山ほど巻物*3
が余ってたからね。
これを売り飛ばして……帽子を買うのよ♪
さぁゲートよ。私をスオミへ!
*1: 使用した個人が○○ゲートの○○で示された場所へ移動できる。
*2: 上級聖職者の杖。敵と戦うといろいろなアイテムが得られる。
*3: 種類によってアイテムの様々な性能を上げる効果があるが場合によっては失敗してアイテムを失う。巻物で性能を上げることをエンチャントと言う。
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posted by GEM at 2005年07月28日 11:30
「はい、ポタージュ」
「ありがとうセシリアさん」
ミーナちゃんはベッドに腰掛けてる。
私はあったかいポタージュを持ってきてあげて彼女に渡してあげたの。
「いいのよー気にしないでー。それより、気持ちは落ち着いたかな?」
「はい、だいぶ落ち着きました。セシリアさんとジンさんのお陰です。こんな遠くまで付き添ってくれて感謝してます」
あ、ミーナちゃん、ポタージュを一口飲んでほっとしてる。かわいーなー。私もジンの方に振り向いてよかったーと思ってにっこり。……あれ? ジンったらにっこり返してくれないわ。うつむいちゃって。
「ジン? 大丈夫?」
「……う……あ……だいじょうぶだよ」
「ほんとー? なんか顔赤いよー? 熱とかないかな?」
ちょっと心配になってジンの顔を覗き込んだら
「大丈夫だってば!」
だって。ムキにならなくてもいいのにぃ。
「ならいいんだけどね。無理しちゃダメよ?」
「してないって。それより……俺は聞いてもいいのかな?」
ジンの表情がちょっと変わった。私もミーナちゃんも何のことかは言われるまでもないんだけどね。
「さっきのこと?」
ミーナちゃんはベッドに腰掛けたままちょっとうつむいてる。ポタージュを持つ手はまだ震えてないけど、私は、カップとまだ修道士らしくないにミーナちゃんの手に、そっと手を添えた。
「ミーナちゃん、話してもいいかな?」
「……はい」
「うん……いい子ね」
「ジン。これから話すことは、今のところ私とフィオ君とミーナちゃんが知っている話。でも知ってると言っても起こった事実だけなんだ。それがどういうことだーって聞かれてもわかんないからそれは先に言っておくね」
「あぁ、わかった」
さて、どこから話そうか……
「……今日の姉さん、明らかにいつもと違ったのは気づいてるでしょ?」
「あぁ。クリガンも言っていたが、セリスがアンデッドモンスターにやられるなんてな。俺は始めて見たぜ」
「でしょうね。姉さんと付き合いの長いクリガンさんでさえ『何年ぶりか』なんて言ってたし。ましてや、後から入った私やジンはあんな姉さん始めて見るってところだわ」
「……」
ミーナちゃんはいつの間にかポタージュカップをサイドテーブルに置き、おとなしく話を聞いていた。
「あ、ミーナちゃんは今日から来たところだし、そもそもまだ神官様の保護から出たばかりだもんね。そうだ。難しいお話の前にちょっとだけお勉強しようよ」
「あ……はい」
ミーナちゃん、キョトンってしてるわ。かーわいー! お人形さんみたいだわ。
「私達聖職者についてなんだけどね、聖職者もいろんなタイプがいるの。私はオーソドックスな聖職者って言われるタイプで知恵に重点を置いて修行をしたの。でね、姉さんは少数派なんだけど知識に重点を置いて修行したの。変わり者の姉さんらしいわ。聖職者にとっての知恵と知識の影響は? と言うとね。知恵の修行によって人体の運動能力を回復させることが出来る。これは祈りそのものの奇跡の力。疲れを癒し、活力を漲らせる。そんな感じだわ。つまりスタミナね。で、知識の修行によって人体の身体能力を回復させる。同じ祈りなんだけど、こっちは祈りがもっと具体的。傷を癒す時は祈るだけじゃなくて実際に体内でどんな現象を起こしたいかイメージするのね。それを行うために人体やその周辺知識が必要なの。だから、本当にその気になれば祈りで人体破壊も出来るのよ」
「……」
しまった……ミーナちゃん、嫌なシーンを思い出しちゃったかな……
「あははは、でもね、そんなことをする聖職者はいないから安心して。*1
それにね、そんなことすると最高神官様にバレバレで、すぐに修行僧の連中に捕まっちゃって、あとは一生出て来れないからどうなるか誰も知らないって話よ。しかも、私達聖職者って、イア神様かザス神様の加護がなければ何も出来ないけど、
人を破壊するようなことをしたらその瞬間加護を失って……多分恐怖のあまり発狂するわ……その恐怖を思うと、怖くてそんなこと絶対に出来ない」
最後の方は思わず感情が入っちゃった。やっぱり私達聖職者は加護を失うことなんて考えるだけでも恐ろしい……
「あ、それでね、姉さんのような知識に重点を置いてるタイプだとね、身体の損傷が修復する様子を、より効果的に、より具体的にイメージして祈ることが出来るの。だから、姉さんがヒーリングをすると私の二倍ぐらいの治癒効果があるわ。
その代わり、スタミナは私の方が二倍回復できるけどね。もうちょっと付け加えるとね、知識を全く修めていない聖職者はどうしてるのかってのはね、祈りでカバーするの」
「セリスみたいな聖職者は医者にもなれるって聞いたことあるぜ」
ジンが付け加えてくれた。
「その通りなの。人体の隅々まで知り尽くしてるから病気の治療や手術も楽勝らしいわ」
「じゃあ、どうしてお医者さんにならないんでしょう?」
「ミーナちゃん、その疑問はもっともね。でもね、簡単な話なの。法律で聖職者の一般人への医術を禁止されてるだけよ」
「それはなぜですか?」
「さぁ、なんでだろうね? 私は法律家じゃないから分からないわ。多分、医者の方が仕事とられちゃうからじゃないかな」
「変な話ですね」
よしよし。ミーナちゃん、顔色も良くなってきたわ。ぐっ。
「でね、姉さんがアンデッドにやられるなんて……って言ってたでしょ? それはこういうことなの。アンデッドにとっては正常な治療を受けるということは内部からの苦痛でしかないの。ましてや姉さんのような聖職者の完璧な治療を受けるなんて、アンデッドにとっては地獄の苦しみでしょうね。ものすごく効果があるわ。つまり、姉さんはアンデッドの天敵よ」
「そうなんですか……。セリスさんってすごいんですね」
ミーナちゃん、そう言うとすくっと立ち上がった。やや? 幼い顔になんか決意がみられるぞ?
「……セシリアさん、あそこに飾ってあるの、父さんの肖像画なんです」
「へっ?」
いきなり父さんですか?
ミーナちゃんの視線の先には……精悍な修道士が描かれてるわ。きっと名のある修道士様なんだろうな。
「あんなことを見てしまって怖かったけど、父さんの絵を前にすると怖がっていられないって思うの。だって、父さんはいつも立ち向かっていったから」
……あんな状態からここまで復活させるミーナちゃんの父さん……すごいパワーだわ。
「っていうか、ミーナ……これが……お前の親父さんなのか?」
ジン? どうしたんだろう。ちょっと驚いたって表情だわ。
「セシリア。お前は知らないんだな。この方は武道集団『シャオリン』の長、ジンメイ様だ」
その言葉をミーナちゃんが続ける。
「はい、そうです。三年前に父もシャオリンのみんなも消えてしまいましたが……」
「えーっ!」
ミーナちゃん、サラブレッドだったんだ! そう思うとミーナちゃん、急にかっこよく見えてきちゃう。
「父は三年前、大切な任務があると言ってシャオリンのみんなと出かけていきました。そのとき父は、極秘任務だから多くは語れないと言いながら、私に一言だけ言いました」
「……なんて?」
ミーナちゃん、実は語るのがうまいんじゃ……わくわくするじゃない~
「……『今度は死神だ』……て」
「!」
ジンは壁にもたれかかり、腕を組んで聞いていた。
「死神ねぇ……ん? どうしたんだ?」
ジンも私の表情の変化に気付いたみたいね。私は……まさかここでも『死神』というキーワードを聞くとは思ってもみなかったし、凄く驚いた。ここにフィオ君がいたらきっと彼もびっくりするわ。
私はジンに……いえ、自分に言い聞かせるように言葉を続けた。
「……いい、ジン。今日ミーナちゃんが見たもの。それは……姉さんが両袈裟切りに切り裂かれ矢に射抜かれた瞬間のこと……」
ミーナちゃんがまた少し震えてるわ。ミーナちゃんの手を握り、そして抱き寄せてあげた。そして私は続けた。
「姉さんの体から、黒い……『死神』が飛び出してきたの」
「は?」
ジンもいきなりそんな事言われても困るだろうなぁ。
「『死神』よ。その『死神』は、ミーナちゃんの前にす~っと来て、そしてミーナちゃんに言ったらしいわ」
やだ、私の方が怖くなってきた……
私が続けるのを躊躇していると、ミーナちゃんはジンメイさんの肖像画を見ながら続けた。
「……そいつは私を見てこう言いました。『ジンメイの娘か……敵討でも始める気か? 身の程を知らぬ人の子め……』死神は私にそういって……私を切り裂いた……。そして『ほんの挨拶でバラバラか。魂が砕けていなければよいがな』と言っていました。そのまま私は死に、次に気がついたときはセシリアさんの腕の中でした」
言い終えたミーナちゃんの目には涙が浮かんでいた。
「……な……そんな。本当か……? そういえばフィオが、ミーナが倒れた後になにやら叫んだが、『死神』と言ったような気がしていた……何のことかと思ったんだが。……それに、確かにミーナの体の損傷は激しかった。激しすぎた。なにより十階にいるモンスターの仕業なら、神官の加護がある俺たち冒険者をあそこまでは切り裂けない」
ジンの言葉に私が続けた。
「そしてそれは姉さまも同じ、神官様の加護がある姉さまを、あそこまで……ありえないわ……ましてや最上位の法衣を纏う聖職者をあんなふうに切り裂くことなんて私達の知ってる常識の範疇では無理よ。クリガンさんが本気で私に斬りつけてもあんな風にならない……」
……こんな空気、イマイチ好きじゃないけど……さすがにちょっとね。
「……ん? あれ? ……でも……だったらミーナ。なんでセリスを見て怯えてたんだ?」
あぁ……そうよね。それも答えないといけないよね……。
ミーナちゃんも辛そうだわ。死神だけならまだ良かったのに、あんなのを見せられちゃ……。
ねぇジン、私、ジンのこと信じてるからね……。
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posted by GEM at 2005年07月28日 11:42
ルアス、バハラ王宮前。
普通、僕のような一介の冒険者が王宮に立ち入るためには、身分を明かした上で、国に登録義務があるギルド*1
関連での入場や、精鋭育成のための攻城戦*2
関係での入場というように、その目的を告げてから入場する。
目的がなくても一応入れるが、間違いなく警戒される。
「やぁ、ピルゲン」
「……この書類かね? 中に入って三つ目の扉に入りたまえ……ん? おぉ! フィオじゃないか」
ピルゲンは僕に気づき、それまで対応していた冒険者を見送ると仕立てのいい上着の襟を両手で正し、アイルーペを胸ポケットに収めながら僕のほうに向き直った。
「調子はどうだい? いい魔術師は見つかったかい?」
「いやぁまだだよ。それより忙しいところ悪いね。父上に伝言を頼みたいんだけどいいかな?」
「いいとも。なにを伝える? 晩飯のメニューかい?」
僕は声を落とした。
「ベイオウルフが来た……と」
ベイオウルフとは、僕がマスター*3
を勤める戦闘ギルドなんだけど、ピルゲンにわざわざこのギルド名を告げるときは別の意味を持つ。
「……すぐに取り次ぎましょう。枢機卿にもご連絡いたしましょうか?」
「そうだね……頼む」
最高級の赤い絨毯、金銀の調度品、大理石の床、壁、天井、そして格調高いシャンデリア……。
どれをとってもいちいちお金が掛かってる。ここはあまり好きじゃないが、仕方ない。僕達は部屋の真ん中の丸いテーブルを四人で囲んでいる。僕の正面、部屋の奥にはルアスの大臣にしてミルレス大教会の枢機卿リーゼッタ様。僕の左は王国第一騎士団団長ルクセン、僕の父だ。そして右に副団長ティルダ。ティルダとは子供の頃から仲がいいんだ――ちなみに、僕は父の騎士団には所属してないよ――。
僕は三人を前に、氷の城での出来事を語った。
「……セリスの体が魔物に引き裂かれ、矢に射抜かれたその時、そこから黒い影が飛び出しました。影はまず素早く辺りを見回しました。そして今日入ったばかりのミーナに気づいたようです。まだ神官様の保護を抜けたばかりのミーナには悪いことをしてしまったと反省しています。死神はミーナに近づき、何か語ったようですが、蘇生後のミーナが落ち着いていなかったのでミーナが何を言われたのか聞きだしていません。次の瞬間、ミーナはバラバラに引き裂かれました。ジン、クリガンには死神が見えないようでしたが、私とセシリアには死神がはっきりと見えました。死神がアンデッドかどうかなどその時点で分かりようもないことですが、とにかくセシリアはわれわれの回復もかねて死神にホーリービジュアを放ちました。全く効かなかったようです。セシリアが死神の大鎌に切り裂かれそうになったので、私はとにかくその死神を呼びました。名前など知りませんから『死神!』とね。通じたようです。振り向いてくれました。奴はいつの間にかどこからともなく黒い巨大な馬のような生き物を召還し、同じくいつの間にかそれにまたがっていました。もしかしたら騎乗した状態に変身したのかもしれませんね。とにかく私の前……そう、ちょうどこの机の向かい側ぐらいのところに音もなく来てこう言いました。『若造、貴様ルアス中枢に縁あるようだな。今日は余は気分がいい。ここで退いてやろうぞ』そしてさらに……えー……失礼ながら……『ルアスの能無し王に伝えるがよい。ルアス王、貴様の負けだ。余は降臨を果たした。マイソシアだかなんだか知らぬがこのような小さき辺境など丸ごと地獄に落としてやろうぞ、とな』そして、その死神は物のついでと言わんばかりに近くにあったウェンディゴハイブを割り、そのまま消えました。通常なら十体程度の[ゴーストフリックル]がハイブから出てきますが……三十体近く出てきて、もうだめかと思いましたよ。セリスの蘇生が間に合わなければ間違いなく全滅でした」
途中、思い出してしまって吐き気がした。
「……フィオ。お前も……見たのだな。『死神』を」
情けない話だが……出来ることなら思い出したくないね。おぞましい、この世の禍々しいあらゆる事象を具現化したようなオーラとでも言えばいいのだろうか。眼のある位置には光るものなどなく、ひたすらに闇だ。セシリアのホーリービジュアに照らされても暗い闇の眼はどこまでも闇だった。
クリガンより大きかったから身の丈は二メートル以上。といっても、死神の身長なんて意味があるのか分からないけどね。ただ、その身長をも越す巨大で長い、漆黒の鎌。あれだけでもかなりの迫力、そして不吉さだ。黒いぼろぼろのローブを纏い……そして足はなかった気がする。もちろん、大鎌を持つ手も骨だったのは言うまでもないよね。
「はい、見ました」
「彼の者を見て生きて帰ったか……強くなったのだな。フィオ」
「私などまだまだ未熟です。それに父上。私だけが見たわけではありません」
「そうだったな。セシリアという聖職者に……ミーナか」
ミーナを知っているのか? 僕の怪訝そうな顔に気づいたのか、父は言った。
「あぁ、セシリアという聖職者は知らぬのだが、サラセンのミーナならよく知っておるよ。ジンメイ殿の娘だ」
ミーナが……あのジンメイ殿の娘だって!?
リーゼッタ様が続けた。
「……もう三年になりますか。ミーナも十八になるはず。因果なものですね」
父上がそれに感慨深げに頷く。僕とティルダは目を合わせた。つまり「三年って何?」ってことだ。父上は察してくれたのか、話してくれた。
「三年前と言えば、お前達二人はまだ見習いだったな……リーゼッタ枢機卿の仰るとおり、三年前のことだ。ジンメイ殿と言えば二人ともお名前ぐらいは存じ上げておろう? 当時もっとも戦闘能力が高い私設戦闘集団はジンメイ殿の『シャオリン』だった。当時のあらゆる騎士団より強いとも言われたからな。国王はジンメイ殿とシャオリンを見込んで、ある密命を託された。……詳しい内容は密命ゆえわしも知らぬが、聞いたところによると……『死神降臨の阻止』とか……」
父はそう言ってリーゼッタ様を見た。
「その通りです。ルクセン団長」
リーゼッタ様は一呼吸おくと、父の話を引き継いで続けてくれた。
「『死神』が降臨した今となっては密命を隠しておく意味もありません。ただ、まだ口外はしないでください」
リーゼッタ様は三人に目配りして、それぞれと暗黙の約束を交わす。
「続けましょう。……そう、三年前です」
*1: 一般に特権的同業者組合だが、ここでは同じ目的の仲間や気の合う仲間等の集まり。戦闘ギルドと親睦ギルドがある。
*2: 城内の特別な場所で行われる模擬戦。戦闘ギルド単位で守備側・攻撃側に分かれて行われる。
*3: 各ギルドには代表となるマスターがいる。また、任意でマスターを補佐するオフィサーが任命されている。
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#06 預言 [リーゼッタ]
posted by GEM at 2005年08月05日 00:11
三年前のルアス……
誰が言うともなく、奇妙な噂が流れました。
この噂を流布した者は不明です。
『死を司る神ミュレカン様がお隠れになったらしい』
当初は所詮町に流れる噂、心無い者の妄言か、さもなくば酔っ払いの戯言かと言う程度で問題視されていなかったのです。
ですが、スオミで行われた水詠みの結果を受け、国王は見過ごすべきではないと判断しました。
そして、私に調査命令が下ったのです。
もちろん、これが民の不安を掻き立てるようなことになってはならないため調査は秘密裏に開始されました。
ルアスにもたらされたスオミの水詠み……。
それはスオミ中央議会での定例の水詠み報告会で報告されたものです。
『セオ神の力の及ばぬ場所に凶兆あり。
最も強きギルドをミルレス内部の前線に当たらせよ。
騎士団、魔術師団*1
はミルレスの凶事が町の外に出ることのないようにせよ』
スオミの水詠みはあえて言えば占いに近いものですが、古くからスオミの発展に欠かせないものであったためミルレスの御神託並に重要視されます。御神託特有の言い回しが少なく、多少は分かり易いと言うこともあり、今でも他国からの水詠み依頼は多いと聞きます。
水詠みは特に選ばれた複数の優秀な魔術師達と特に水詠みに優れた巫女達によって何度も行われます。申し合わせを防ぐために各魔術師と巫女の水詠みの結果はお互いに知らされませんが、このときは全員が同じ結果を得たそうです。
スオミ中央議会も事態を重く見て私の調査に協力していただけることになり、現在でもスオミ中央議会大代表補佐であるミュゼリア様がお力になってくださいました。
私達は、さらに情報を求め、カレワラの魔女達を訪れることにしました。
カレワラの魔女達は、我々とは違う、御神託でも占いでもない独特の力があります。数人の魔女の魔力によって巫女を強力なトランス状態に誘導し、大自然の叡智に直結させ、さらに一時的に強力な予知の力を開かせるということです。
その儀式はカレワラの一部の者しか見たことがないようですけどね。
私達が向かうと、魔女達は既に儀式を終えていました。
彼女達が過去の魔女戦争*2 の禍根を超えて積極的に儀式を終わらせておいてくれたと考えるのも不自然ですから、おそらく既に何かを感じ取っていたのでしょう。
私達が事情を説明すると、彼女達は儀式で分かったことを私達に語りました。その内容は非常に丁寧で具体的だったことをよく覚えています。丁寧すぎるほどでしたが、確実に伝えたいという彼女達の気持ちの表れだったのでしょう。
『全く良くないわ……
ミュレカンの影響力がずっと途絶えている。こんなこと初めてね。
ヘックスタはミュレカンの空席を奪うつもりよ。
そしてね、結論から言うと、
そのままにしておけば均衡が崩れ、マイソシア全土に関わる事態になりかねないという事よ。
これは重要なことだからできるだけ分かりやすく話すわ


