#01 デジャ・ヴ [セリス]
posted by GEM at 2005年07月27日 19:50
……?
おかしい。何がおかしいのか分からないけど、なんていうのかな。
さっきからずっと、収まりの悪い違和感? が付きまとってる。
いつも通り、気乗りしない狩りに半ば強引に連れて来られ、そしていつも通り、私の「癒し」の前に次々に崩れていくモンスター達。
いったい、何だろう? なんて思ってた次の瞬間。
背後から後頭部に強烈な一撃が来た。
「痛っ!! このクソ[エミス]ーー!!」*1
油断したわ。
羽帽子の下の涙目の私。投げつけられた氷塊で帽子の形も気持ち崩れたんじゃないかしら。
それにこの感じだと、私の形のいい頭にコブになってるのは間違いないわ。
んもう! ゆるさない!
私は修羅の形相で振り向く。威嚇だけで呪い殺すほどに……
……あれ? なんか変だ。
?
なんでだろう?
見られてる?
冷たい視線?
憤怒?
絶望?
疑念?
哀願?
歪んでるっていうのかなぁ……
かといって、理解できなくもないし、愛も感じるような……
なんなのこの視線。うまくいえない。
でも……ここに天使がいれば、天使はその視線の主にきっとやさしく囁く。
「それは神の御心に背くこと」
!?
耳元ではっきりそう聞こえた気がして、びっくりして周りを何度も確認する。
右にも……左にも……後ろにも、そして上にも、天使なんていないわ。
いつも通りの……仲間が……仲……? 仲間ってなんのこと?
あれ? 私、今、何してるんだろう?
やっぱり変だわ。なんか夢の中にいるみたい。
なんていうか、すごく客観的っていうか、世界を別の次元から見てるみたい。
時間がゆっくり進んでるような……誰かに変な薬でも飲まされたのかしら。
気持ち良いような気もするし、気持ち悪いような気もする。
ふと視界に景色が飛び込んできた。そのわりには遠いわね。
モンスターと戦うパーティーがいるわ。
前衛の戦士と騎士、遠くから見てもかなり強い。
それにしても凄いわね。
武器のことは分からないけど、いかにも重そうな斧をまるでシルクの旗のように軽々と振る戦士。それが決して軽い一撃じゃないのはモンスターのぶっ飛びようを見れば分かる。
そしてあの騎士。素人から見たら邪魔にしか思えないような長~いランスを羽根ペンのように操り、モンスターの死刑執行書にサインでもするかのよう。そして、確実に執行していく。
この二人、ソロでも平気っぽいな。というか、熱くなってるっていうの?
パーティーなのに仲間そっちのけで視界に入ったモンスターを片っ端から始末してる感じ。
騎士はパーティーから離れだしたわ。あからさまに獲物を求めてるわね。
あ、もう一人いる。
二人の影から申し訳なさそうにうろちょろとパンチやらキックやら繰り出してる女の子。まるっきり当たってないわ。たまに当たってモンスターに睨まれるとビビッてる。あの子、やる気があるないじゃなくて、なんかやらされてるというか、かわいそうに見える。
どうやら「お勉強*2
」させてもらってるみたいね。よく見るとティアラ*3
を頭に載せてる。ちょこんって表現がぴったりで、なんていうのか着こなせていない感じ。でもあれがなければ今頃死体ね。
それにしてもどこかで見たことがあるような奴らね。遠くてよく分からないけど。
数歩後ろには二人の聖職者とその聖職者を守る盗賊さん。
一人の聖職者はパーティーの支援のようね。何かを唱えるたび、メンバーが光に包まれてる。ん~、でも『生徒さん』がいるから、どうしても補助が生徒さんに手厚くなってるようね。
で、もう一人の聖職者……何してるのかしら? ぼーっとしてるわ。そんなことしてると……
「・・! ・・・・・!」
盗賊が何か叫んでる。よく聞こえないけど、口の動きは「おい! なにしてる!」って見えた。そりゃそうでしょうね。
それにしてもこの盗賊の体裁きや攻撃の正確さ。見た目の軽そうな一撃とはうらはらに、叩き込む全てが急所。モンスターのどこが急所かを知ってるのと、常にそこに一撃を叩き込むのは次元が違う。こいつもかなり強いみたい。
でもね、いくら高レベルの盗賊でも、自分から身を守ることもせず闘うこともしない人間を守るのは大変。ましてやここは氷の城*4 の十階*5 。
あ。盗賊がさらに後方から来た[アナカム]一体と[マカイラ]三体に絡まれたわ。一対一に持ち込んで確実な一撃と迅速な離脱による各個撃破が基本の盗賊、俊敏な動きを確保するために身につけているものもあまり強力なものじゃない。多対一の戦闘は、あまり期待しちゃいけない。
まずいわね。あのボケッとした聖職者にも別の[アナカム]が背後から弓を引き絞って狙いを定め、さらに別の[マカイラ]の二本の剣が血を求めて聖職者を生贄に選んだみたい。聖職者ならなんでさっさとホーリービジュア*6 を撃たないのかしら? MP切れ? でも、あの左手に持ってるのはリンゴ*7 よね。だったらさっさと食べないと……
戦士はこの聖職者に気づいたみたい。生徒に促して二人で聖職者の方へ走り出したわ。ただ、残念、ちょっとだけ遠いわね。あれは間に合わないわ。騎士の方はさらにパーティーから離れすぎてたみたい。いや戻ってきたのかな? っていうかその背後に山ほど[マカイラ]が……。
あぁ、なるほど。釣ってきたのね*8 。
仕方ない。ここはひとつ。おせっかいだと思うけど助けてあげ……?
あれ? 体が……動かない……というより……体が……ない!!
!
突然、違和感が明らかな異変になった。
私は、突然遠くから見ていたはずのパーティーの、ボケッとしてる聖職者に飛び込んだ。
いいえ、飛び込んだというより、私の目にしていた映像がその聖職者を一気にズームするように映像が私に迫ってきた。
そして、映像がその聖職者に覆われた瞬間
―――――――――――――――
私は、まるで悪夢から覚めるかのように突然我に返った。
体がない!
なぜだか知らないけどそんな得体の知れない恐怖が直感的に脳裏を駆け巡り、私は咄嗟に視線を自分の体に向けた。
あ。なんだ。あるじゃない。いつも通り最上位の聖職者の正装に包まれたナイスバディが。足が青い床についている感覚もしっかりある。ふと両手を見た。ちゃんとあるわ。右手にはいつもの愛杖、スリーピー君*9 。マスコット人形もちゃんとついてる間違いなく私の物。そして、左手にはすっぱいリンゴ。
まぁ、そりゃそうよね。体がなくなるなんてどうかしてるわ。悪い夢でも見てたのよ。……そう……え?
夢? ……困ったわ。私は一体何をしてるの。一体何に驚いたのか覚えが全くない。
私は、何で両手を見てほっとしてるの?
とここまでほんの一瞬。そして例によって次の瞬間。
「っ避けろ阿呆!」ジンが叫ぶ。
私の目の前に……[マカイラ]が二本の剣を振り下ろそうとしている! 一体何事……?!
そうだ。思い出した。(思い出したってのも変だけど)私は狩りに来てたんだ。
えっと、ついさっき[エミス]に背後からどつかれて……あぁ、だから私フラフラしてるんだわ。神官様の祝福を受けてなければエミスの一撃で脳震盪で気絶だろうなぁ。
っていうかそんなこと言ってる場合じゃない! 体が咄嗟に戦闘モードに入る。でも……なんてこと! 目の前の[マカイラ]はよほど私が欲しいらしいわね。しかもまるで勝ち誇ったように剣を振り上げてる。いつもなら……[マカイラ]なんて私に近づくことも出来ないのに……! だめだ。間に合わない。
「セリスー!!」
[マカイラ]の背後で斧を振り上げたクリガンが私の名を叫んだ。
でも、[マカイラ]の二本の刀の方がクリガンの斧より少し早かったみたいね。
私は杖で受け止める動作さえ出来ず、かなり派手にVの字に切り伏せられた。法衣もろとも肩から股間まできれいにね。モンスターにとっては関係ないんでしょうけど……デリカシーのかけらもない奴だわ。
状況は……あまりにもスプラッタなのと、この私が[マカイラ]如きの剣に斬りつけられた! なんて癪に障るから省略するけど、痛いなんてもんじゃないのは言っておくわ。受けた衝撃に対する本能的な反射なのか、私の体はビクンっと本能的に後ろへ飛び退いた。というか逃げた。いや、斬撃に弾かれただけかも。
とにかく膝ががくがく笑って、何でまだ意識を保って立っているのか自分でも不思議なくらいフラフラ。それでもなんとか視線を上げると、私を三枚におろしそこなった[マカイラ]はクリガンの斧で粉砕された。
私としたことが……やっちゃったというかやられちゃった。かなり強烈な一撃ね。アレ風に言えば残りHP二か三ってとこよ。とにかく……か……回復を……。私は薄れる意識に文字通り必死の抵抗を試みてリカバリを……
唱えられなかった。
背後から放たれたのだ。[アナカム]の氷の矢が。ただでさえスプラッタ状態になった私の元セクシーボディのお腹だったところから、内臓と一緒に血に染まった矢が四十センチほど突き出してる。
「……元気のない矢ね。いっそ突き抜けて欲しいもんだわ」
そう言ったのが最後だったと思う。
あと……覚えてるのは……
クリガンの怒号、妹の間一髪で間に合わなかったホーリービジュア詠唱、
スパイダーウェブ*10
をモンスターに掛けまくるジン、
生徒さんの悲鳴……まぁ、こんなスプラッタ見ればさぞかしびっくりするでしょうけど、冒険者ならそんなにびっくりしなくても?
そして、「信じられない」って顔で私の方を見ながらそれでも急いでパーティーに騎士補助を掛けなおすリーダー……
自分としては最後にありったけの力を振り絞って絶世の笑顔をみんなに贈ったつもりだけど、うまくいったかしら。
膝が折れ、派手に血を吹き出す。私ったらなんてかっこ悪い。[マカイラ]やら[アナカム]なんかにやられるなんて。しかも二本の刀を上段に振りかぶるような頭の悪い攻撃と背後からの矢……あ~あ、くやしいなぁ。リンゴが左手から開放されコロコロと逃げていく。血に染まった私のスリーピー君に体重を預け、なんとか堪えようとしたのも束の間、ついに瞼が落ちてきて視界は真っ暗に。そして、左側に倒れたらしいけどもう痛みなんて麻痺しちゃってなかった。
あぁ、どうやら私、死ぬっぽいわ。みんな強いからあの程度なら何とかなるよね。あとは走馬灯をクリアすれば次は天国かしら?
……この世界で冒険者がそうそう思うように死ぬことができれば、だけどね……
*1: []カッコで囲まれているモンスターはアンデッドモンスター。ゲーム中の表記に倣っている。
*2: 初級者が上級者と行動を共にして戦う状態を指している。ゲーム中で言うところの「寄生」
*3: ここではバシレウスティアラ。ゲーム中においても装備者の体力などを大幅に増強する。
*4: レビアのさらに北にある。レビアの位置についてはap1.マイソシアの都市(資料)を参照のこと。
*5: 氷の城の最上階。この先に亜空間や監獄などがある。
*6: 回復魔法、体力を回復する。アンデッド系モンスターには攻撃手段となる。
*7: マジックポイントを回復する特殊なアイテム。
*8: より多くの戦闘経験を積むために、辺りにいるモンスターを自分をえさにして引き連れてくること。
*9: 正式名称スリーピーヒーラー。上級聖職者の装備できる杖。装備者の知識能力を増幅する。
*10: 盗賊の技、対象の動きを封じることが出来る。


