#02 帰還 [セリス]
posted by GEM at 2005年07月28日 11:28
「蘇生完了! 姉さん、大丈夫!?」
何の前触れもなく突然私はこの世にいる。いきなり全ての準備が整った舞台にヒロイン役で投げ出されたようなそんな感じがする。そして、すでに物語の前振りは終わっていて……私もやるべきことは全て分かっているような感じ。
瞬時に、今の舞台のシーンを理解する。
自分はもはやビジュアやリカバリなどの回復を受け付けない状態、つまり死に至り、そして蘇生*1
を受けて再びこの世に蘇ったと知るのだ。瞬時に悟ると言ったほうがイメージとしては近いわ。
両袈裟切りに遭って尚且つお腹から矢が突き出してたなんて嘘のように傷跡なんて一つもなく、引き裂かれた法衣だって元どおり。私の血で染めてあげたはずの床も元通りの冷たい青。
私は憂いを帯びた表情で「また死ねなかったわ……」なんて台詞を思い浮かべたけど、ぶっつけ本番は難しいものね。迂闊にもありきたりの反応しか出来なかった。
「ごめん。みんな無事?」
そういって、妹に抱えられてた上体を起こし周りを見渡す。ところがこれまた、全然無事じゃない。要するに、パーティーはかなりピンチだ!
妹は私が起き上がったのを確認するとすぐさま立ち上がりホーリービジュアを詠唱する。
リーダーの騎士フィオはともかく、クリガンとジンはHP*2
をひっきりなしに回復してやらないとすぐに死んでしまいそう。
二人が弱いわけじゃなくて、リーダーが釣り*3
すぎた&状況が強烈に悪化したためだ。
ちなみに、生徒さんのミーナはとっくにスプラッタよ。……しかし……。変ね。ちょっと惨すぎるわ。……とりあえず見ないようにしよう。
「姉さん! 早く!」
で、「状況が強烈に悪化」を簡単に説明すると、何のことはない、ウェンディゴハイブを割り逃げされたっぽい。鬱陶しいことをする奴もいるものね。
ウェンディゴハイブの中には[ゴーストフリックル]というモンスターがいるのはご存知の通りね。クリスタルのような、ガラスのようなウェンディゴハイブ。割れば中のそれが出てくるのは当たり前のこと。厄介なのは、[ゴーストフリックル]が十体近く一気に出てきて、そいつらが一斉にかなり強力な遠距離攻撃を仕掛けてくる。
妹のセシリアも[ゴーストフリックル]の攻撃に晒されながら何とか生きてるのは冒険者の為に特別に作られたお肉*4 を食べまくってるから。このお肉は食べた瞬間から体力を回復できる。しかもどれだけ食べても太らない! おいしくないけどね。他のメンバーもこの肉を食べまくりながら応戦してる状態だ。
……っていうか。あれ? フリックル多すぎない?
まぁいいわ、上等よ!
「フリックルを黙らせるわ!」
私は敵と味方の集団のど真ん中にホーリービジュア*5
を唱えた。
このフロアの敵は、全てアンデッドだ。ビジュアなどの回復系の魔法は負の存在であるアンデッドにとっては脅威でしかない。
そして、私は魔術師と同じように知恵よりも知識を選択した聖職者。私のホーリービジュアは、ことアンデッドを相手にする限り非常に強力なの。さらに、ホーリービジュアの影響範囲にモンスターも含めて対象がいればいるほど強力になる。
ほとんどのフリックル達がちょうど発動地点の右の方にたっくさんいたので*6 フリックル達は一撃でほぼ殲滅された。その他アナカムやらマカイラも影響範囲にいた奴らはほとんどが即崩れ落ちた。たくさんのアンデッドに囲まれた時のホーリービジュアはどんな攻撃よりも強い。*7 さらに同時に、味方の体力は一気に回復した。これも知恵より知識を選択した聖職者ならではだ。
敵の戦力ががた落ちになった瞬間、セシリアは間髪いれずにメンバーに補助魔法を掛けていく。
「よし、見える範囲だけ掃討しよう。離れないでね。ミーナを蘇生したら一旦帰還するから」
フィオは言いながら目の前にいた敵にピアシングスパイン*8
を放つ。敵が崩れ落ちた。
袋叩きにされていた状況から一変してあらゆる聖職者の補助を受けたクリガンとジンは、まるで鬼神のように、見える範囲の敵を蹴散らした。私もリカバリ*9
で二人の殲滅速度を上げる。
「帰還するのか?」
ジンは最後の敵が崩れ落ちるのを見ながらそう言うと、振り返りながら短刀「カチハプン*10
」の「血糊」を振り払った。といっても、ここでは血糊じゃなくて氷のかけらがぱらぱらと飛ぶだけ*11
なんだけど、これはジンの癖だ。
「そのほうがいいだろう。今の非常事態で肉を予定以上に消費した。それに肉が足りたとしても、セリスの調子が悪そうだ」
でかい図体のくせにそれを感じさせない足運びのクリガン。いつの間にやら私の背後。しかも言いながら私の右脇から手をしのばせ、私の右胸を下から包むように触れてくる。
「大丈夫か? 派手に乳に切りつけられてたぞ。いつものお前なら考えられん」
まったく、気安く触ってくれるわ。私はクリガンの手を左手で胸からそっと払う。同時に愛杖スリーピー君を後方にいるクリガンの側頭部に叩き込む。まぁ普通に斧で受けられちゃうし、戦士に聖職者の攻撃なんてなんのダメージを与えられないけどね。
「レディーに乳って言わないの。それに斬りつけられたのは胸じゃなくて鎖骨からよ」
「似たようなもんだ。アンデッドモンスターがお前に斬りかかったのを見たのは何年ぶりかってことだよ」
それもそうね。ほんとにその通りだわ。一体、私どうしてあんなことになったのかしら。気がつけば目の前に[マカイラ]なんて、ムカツクったらない。
「グレートリザレクション!」*12
背後からセシリアの詠唱が聞こえ、やわらかい、しかし神々しい光がフロアを照らした。そして、光で全てを見ることは出来ないが、三つぐらいに引き裂かれていたミーナの体が元通りになっていく。
「しかし、いつ見ても……掟破りというか、信じられない魔法だね。大体、なんで着てるものまで直るのさ」
一応リーダーらしく回りに気を配りながらフィオが呟くと、光が消えミーナを抱え上げたセシリアが応えた。
「信じるのは私達に任せてよ。ねぇ、姉さん」
「……そうね」
「……姉さん? どうしたの?」
「うん……どうしたのかしらね」
そう、自分でもわからない。聖職者に就く者にとっては蘇生は信じられない魔法じゃない。「信じる魔法」。
当たり前のことなのに……
「肉ならまだあるんだが……セリス、今日はやっぱりやめとくか?」
ジンが彼の守護動物の卵*13
を見せながら言う。そういえば、ジンは盗賊の癖に山ほど物を持ち運ぶんだった。守護動物を使ってね。いや、盗賊だからこそ山ほどの荷物を持ち歩くのかな。
私が答えるより早く、セシリアが応える。
「ジン、無理みたい。ミーナちゃんが……」
それを聞いた全員がセシリアに振り返り、そしてセシリアに必死にしがみつくミーナを見た。フィオがセシリアとミーナに近づき、二,三声をかける。そして三人がもう一度私を見る。
「? ……どうしたの?」と私が言うのをほとんど無視して、しかし私から目を離さず、フィオがみんなに告げた。
「帰ろう」
あれ? 気のせいかな。 ミーナ、私を見て怯えてない? ちらちらと私を見て、ちょっとでも目が合うと小さな悲鳴を上げてさらにセシリアにしがみついてるような。そして……
私の様子を見ているフィオとセシリアの目。何か私に言いたいことがありそうね……
「ミーナ。まずは君を家に送るよ。サラセンに飛ぶ。みんな準備いいかい?」
フィオはメンバーに告げた。
「うん。飛んで」
セシリアは私から目を離さずに応えた。
すでに記憶の書*14 の目的のページを開いていたフィオは、セシリアに頷いて記憶の石*15 を取り出した。
*1: 聖職者の魔法で死亡した冒険者を蘇生することができる。
*2: ヒットポイント。体力のこと。体力0は死亡状態。
*3: パーティーの元に敵を連れてくること。多少強い敵でもこれを協力して倒すことで全員が強くなっていく。
*4: 冒険者必須アイテム、一定量の体力を即時回復する。
*5: ホーリービジュアは発動した地点だけでなくその周辺にも影響を与える範囲魔法。
*6: 回復魔法によるアンデッドの攻撃は、発動地点の右にいる対象ほど強烈な威力となる。
*7: 影響範囲に対象が多ければ多いほど威力を増す。また、左から右の順で威力が倍々に上がっていく。
*8: 騎士の技。槍で敵の体を貫通するように突く。
*9: 聖職者の回復魔法、狙った単体のみに影響し、アンデッドが対象であれば攻撃手段となる。
*10: 中~上級盗賊の主力武器
*11: ここで相手にしている敵は氷のモンスターか霊体である。
*12: 聖職者の蘇生魔法。
*13: ゲーム中では「孵化した豪華な卵」というアイテム。ペット及びペットに持たせたアイテムを卵に戻して持ち運べる。
*14: 五箇所の場所を記憶しておける。その場所に移動するには記憶の石が必要。
*15: 記憶の書に記憶された場所に移動する際に消費する触媒。


