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#06 預言 [リーゼッタ]

posted by GEM at 2005年08月05日 00:11

 三年前のルアス……
 誰が言うともなく、奇妙な噂が流れました。
 この噂を流布した者は不明です。

『死を司る神ミュレカン様がお隠れになったらしい』

 当初は所詮町に流れる噂、心無い者の妄言か、さもなくば酔っ払いの戯言かと言う程度で問題視されていなかったのです。
 ですが、スオミで行われた水詠みの結果を受け、国王は見過ごすべきではないと判断しました。
 そして、私に調査命令が下ったのです。
 もちろん、これが民の不安を掻き立てるようなことになってはならないため調査は秘密裏に開始されました。


 ルアスにもたらされたスオミの水詠み……。
 それはスオミ中央議会での定例の水詠み報告会で報告されたものです。

セオ神の力の及ばぬ場所に凶兆あり。
最も強きギルドをミルレス内部の前線に当たらせよ。
騎士団、魔術師団*1 はミルレスの凶事が町の外に出ることのないようにせよ』

 スオミの水詠みはあえて言えば占いに近いものですが、古くからスオミの発展に欠かせないものであったためミルレスの御神託並に重要視されます。御神託特有の言い回しが少なく、多少は分かり易いと言うこともあり、今でも他国からの水詠み依頼は多いと聞きます。

 水詠みは特に選ばれた複数の優秀な魔術師達と特に水詠みに優れた巫女達によって何度も行われます。申し合わせを防ぐために各魔術師と巫女の水詠みの結果はお互いに知らされませんが、このときは全員が同じ結果を得たそうです。

 スオミ中央議会も事態を重く見て私の調査に協力していただけることになり、現在でもスオミ中央議会大代表補佐であるミュゼリア様がお力になってくださいました。


 私達は、さらに情報を求め、カレワラの魔女達を訪れることにしました。
 カレワラの魔女達は、我々とは違う、御神託でも占いでもない独特の力があります。数人の魔女の魔力によって巫女を強力なトランス状態に誘導し、大自然の叡智に直結させ、さらに一時的に強力な予知の力を開かせるということです。
 その儀式はカレワラの一部の者しか見たことがないようですけどね。

 私達が向かうと、魔女達は既に儀式を終えていました。

 彼女達が過去の魔女戦争*2 の禍根を超えて積極的に儀式を終わらせておいてくれたと考えるのも不自然ですから、おそらく既に何かを感じ取っていたのでしょう。

 私達が事情を説明すると、彼女達は儀式で分かったことを私達に語りました。その内容は非常に丁寧で具体的だったことをよく覚えています。丁寧すぎるほどでしたが、確実に伝えたいという彼女達の気持ちの表れだったのでしょう。

『全く良くないわ……
ミュレカンの影響力がずっと途絶えている。こんなこと初めてね。
ヘックスタはミュレカンの空席を奪うつもりよ。
そしてね、結論から言うと、
そのままにしておけば均衡が崩れ、マイソシア全土に関わる事態になりかねないという事よ。

これは重要なことだからできるだけ分かりやすく話すわ。
神々のことだけど内容は単純よ。

まず、私達の主に信仰する神々は十四柱。
善と悪の神二柱ずつが一組となり全体のバランスを保っている。
もちろん、よく知られているように冒険者の守護神としても祀られている。

 絶対のセオ   ←騎士の神  →  死のミュレカン
 人情のカン   ←吟遊詩人の神→  悪夢のメリス
 渇望のシャス  ←盗賊の神  →  腐敗のハデス
 休息のイア   ←聖職者の神 →  混沌のザス
 戦争のセトア  ←戦士の神  →  恐怖のヘックスタ
 真理のロオ   ←魔術師の神 →  呪いのインカ
 寛容のメテュス ←修道士の神 →  苦痛のタリス

じゃ、いくわよ。
仮に、各神々の力は一だと考えて。
すると、善の神の力の合計は七、悪の神の力の合計は七。
善と悪の神界レベルでのバランスが保たれているということね。

現在の状態は死のミュレカンの影響力が極端に衰えている。
つまり、悪の力が七から六に落ちていると考えられる。
ということは、善のエネルギーの方が多い。要するに、バランス自体は既に崩れてるの。

ただ、ヘックスタがミュレカンの空席を奪おうとしている今は
状況が流動的でまだ大きな影響を及ぼしていないし、
十四柱の神々の主神たるセオも、そう易々と均衡を崩したりしない。
セオは彼を祀る騎士達への影響を最小限に抑えるために自らの力を抑えている状態よ。
だから今は事実上、善の力と悪の力は辛うじて六と六に保たれている。
ただし、ミュレカンが戻るかヘックスタがその座を奪うまでの間はね。

ちなみに、ヘックスタがミュレカンの空席を奪うというのは見かけ上の話、正しくは『ヘックスタはバランスを保とうとしているだけ』なの。

続けるわ。
ミュレカンの空席をもしもヘックスタが奪ったらヘックスタの力が二になる。
すると、善の神々の力の合計七と悪の神々の力の合計七で、合計の力では釣り合う。

でもね、全体は釣り合ったように見えるけど実際には違うの。
ヘックスタの対極にあるセトアの力は一のままなのにヘックスタは二の力になる。
対極の神同士は別に仲が悪いわけじゃないけど、
結果として両神の守護する戦士達には異変が起こる。

ヘックスタの方が力が大きいのだから、マイソシア中の戦士達は確実に混沌や混乱を引き起こすわ。
特に、ヘックスタを主神として崇めるオレンの戦士達はヘックスタ神の力の増大を吉として一気に勢力拡大を狙うでしょう。

……戦闘能力において最強の戦士達が一斉にそんなことを始めたら……騎士団だってそう簡単には止められないわよ?

それだけじゃないわ。悪の神々は常に混沌を後押しする。
それが悪の神なのだから……。
戦士達や悪の力の影響を受けた者達の勢いは止まることはないでしょう。

当然、善の神々や善の影響を受けた者達も秩序を取り戻すために対抗する。
そして、秩序を取り戻すとはいずれは国家の統治活動の拡大へとつながる……。
さっきも言ったとおり善の神と悪の神の合計の力は相変わらず同じだから善と悪の両勢力の力は拮抗したまま泥沼化する……。
もうこの先は言わなくても分かるでしょう……。

戦士達の引き起こす混沌の戦乱は確実に神界をも混乱に陥れるわ。
もう、そんなこと……想像したくもない。

私達の予知の目に、二つの未来がはっきりと映ったわ。
一つは、ミュレカンはその座に戻り以前のバランスを取り戻す……。
もう一つは……地上には復讐と憎悪と恐怖が渦巻き、蠢くのは剣と魔法が交錯する戦場で戦う人の姿のみ。
廃墟と化した都市はそれ自体が墓標となる……。

以前のバランスを取り戻し、無益な戦争を避けるための言葉はミルレスに示される。
あとは、その言葉を実行できるかどうかよ……。

お願い……戦争はもうやめて……』

 彼女達は先の魔女戦争に置いて非常に惨い仕打ちを受けています。そんな彼女達の言葉は大変な重みを持って私達二人に伝えられたのです。
 ミュゼリア女史はそんな彼女達の平穏を願う気持ちに打たれたのでしょう。大きな瞳にうっすらと涙を浮かべながら、しかししっかりと彼女達に約束しました。「必ず、ミュレカン神にお戻りいただく」と……。


 私達は使命の重さを改めて認識し、決意も新たにミルレスのゼシン神殿に向かいました。

 スオミの水詠みに名指しされるまでもなく、そしてカレワラの魔女達の語ったとおり、この時のミルレスのオルレウス最高神官のもとにはすでに御神託が下され、そしてガーリン教皇の下にも届けられていました。
 最高神官、教皇共に私達の来訪についておおよその見当をつけておいででした。お二人は私達の話を聞いた後で、遂にその御神託の内容を明かされました。

『水鏡に写りしは我が言霊。
これをもって帰らざるならば備えるのだ。
禁忌の血と秘術ゆえに身を落としたる背徳の徒のみが大いなる摂理をも退け、
御座に落とされし彼の者に手を差し伸べるであろう。
されど彼の者に続き出でるものあり。
遥かなるメンタルロニアの大いなる御神にして死と恐怖を統べる神。
これを必ずや退けよ。
さもなくば、暗き光の見据えたる先に母なる大地は焦土を化し汝等は屍へと転生するであろう』


 私達はいよいよ迫り来る事態の核心に迫ろうとしていました。

 まさに……そう、これはまさにメタリアル文明を襲う未曾有の危機と言えました。なぜならば、ミュレカン神にお戻りいただかなければカレワラの魔女の二つ目の予知通りの結末となるでしょう。ですが、ミルレスの御神託はミュレカン神がお戻りになるとき、同時にメンタルロニア*3 の『死神』が現れるとしています。これを退けなければ……『母なる大地は焦土を化し汝等は屍へと転生するであろう』

 もはや選択の余地などないのです。何を犠牲にしようとも、ミュレカン神にお戻りいただく。そして死神にはメンタルロニアのご自身の居場所にお帰りいただく。

 それ以外に人類の未来に希望を見出すことは出来ないのです。


 この時点で問題となっていたのは、ミルレスの御神託の冒頭の部分です。水鏡とはおそらくスオミの水詠みを差しているのだろうと考えられました。これをつなげて読むと『スオミの水詠みの結果をもって帰らざるならば備えるのだ』……我々はこれを解読できませんでした。

 あまり詳しくは述べませんが、素直に受け止めようとすると時系列の無理が生じ、この辻褄を合わせようとすると解釈の飛躍が大きくなりすぎて対策が打てません。

 他にも問題がありました。
 一つは、それがいつまでに起こるのかが誰にもわからないということです。それとは、ヘックスタ神がミュレカン神の座を奪う時のことです。

 もう一つは、スオミの水詠みの冒頭『セオ神の力の及ばぬ場所』。そのような場所はマイソシアでは考えられないのです。

 私とミュゼリア、そしてガーリン教皇の三人はこれまでに得た情報から未解決部分の問題を解くことに全力を注ぐことにしました。

 また、この時点で出来ることとして二つの事を行いました。

 一つはこの危機をマイソシア各地の首脳に伝え、出来る限りの協力をお願いすることでした。もちろんこれはマイソシア全土の問題ですので、国交のない国にも使者を送っています。

 使者の派遣に対して明確に反応を示したのは三カ国でした。

 三カ国はそれぞれ独自に何らかの異変を感じ取っていたようです。その国とはレビア、そして当時(そして現在も)全く国交のない国々であるマサイ・オレンです。

 レビアは、長年抱えている氷の女王の問題があり、この問題までは手が回りませんでした。むしろ、氷の女王に関して常に各国に協力を要請していた状態だったのです。それに、レビアはもともと土着の民、信仰の体系が異なりますからね。
 ただ、有事の際には協力は惜しまない、必ず駆けつけると使者に親書まで持たせてくれました。

 オレンは予想通り、この事態をむしろ吉兆と受け止めていました。人というのはどんなことでも見方や考え方を変える事が出来るということです。都市の信仰するヘックスタ神の力が増すかもしれないため、彼らが歓迎するのも理解できなくはありません。もちろん、我々はカレワラの魔女達の話も添えて「そういう次元の問題ではない」と説得しましたけどね。最後まで通じませんでした。

 マサイは……気付いたようですが……。
「どうもしない。神々のことであればそこに人が為す事などない。流れに任せる」との見解を示しました。ただし、私たちが何をしようとも「それも流れの一つだろう。勝手にするがいい」という態度です。

 その他の国は一先ず様子を見守ることにしたのか、一応協力できることがあればするという程度の当たり障りのない回答でした。

 もう一つ行ったことは、スオミの水詠みに示された『最も強きギルド』への協力要請です。当時抜きん出た戦闘能力を持ったギルドは、珍しく一つしかありませんでした。それが、ミーナ殿のお父上がマスターを勤めていらっしゃった『シャオリン』です。これには国王のご協力を賜ることが出来ました。

 ルアス王は「シャオリン」のマスターへの密書を書き上げてくださいました。
 この密書はルクセン団長に託され、届けられたと聞いています。
 
 
 


補足
*1: ここでいう魔術師団は精鋭騎士の集まりである騎士団と同じく精鋭魔術師の集まりに対しての言葉であり、軍隊の部隊単位でいうところの師団とは異なる。ただし、部隊単位の師団がないわけではない。なお、部隊単位の師団とは以下の通り:戦闘・補給・管理・衛生など総合的な機能をもち、独立的に作戦を遂行しうる、陸軍の主要な職種(兵科)をひとまとめにした諸職種連合の部隊。[日本大百科全書より]
*2: Asgardの公式ホームページより:数年前、キルケという魔女が王の暗殺を企てたが大将軍トールによって阻止され、カレワラは大陸を敵に回すようになる。『魔女狩り』という名の下に始まった魔女掃討作戦はルアス、ミルレス、スオミが連合軍を起こし、カレワラを廃墟に変えてしまった。国王暗殺未遂事件に端を発する、大陸とカレワラとの戦争を人々は『魔女戦争』と呼ぶ。
*3: 伝説中の理想郷。ただしこの話の時点ではすでに過去にメンタルロニアが存在したことを裏付ける遺物の存在が知られており、伝説ではなく学術的な調査対象となっている。

 

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WEB拍手
作者がお話を書く活力になります。何卒m(__)m
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