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#18 背徳の徒2 [マレリア・3年前]

posted by GEM at 2005年09月18日 22:46

マレリア……。気持ちが分かるなどとは言わない。だがどうか、死んでしまえばいいなどとは思わないで欲しい。君の命が消える代わりに消えた命があるんだ」
「いまさら言われなくても分かってるわ! そうよ! 私は十八人もの犠牲者の人生を踏みにじって」
「声が大きい! 落ち着くんだマレリア。それに私は十八人の犠牲者だけのことを言っているのではない」
 私の言葉がガーリンの強い語調にさえぎられた。この古びた家であまり大きな声を出すと外に全て聞こえる。ガーリンはそんなことまで気を使ってくれているんだ。その気遣いにも全く素直になれない私……。
「なによ。なんだっていうのよ。だったら一体何のことを言ってるのよ」
「君がそこまで自分を追い詰めてしまうことは理解できなくもない。私が君の立場ならやはり自分を責めずにはいられないだろう。だが、いいか。二十三年前、君は望みどおり処分されるところだったんだよ」

 一瞬にして、私の思考回路が停止したような感覚に襲われた。まるで鈍器で後ろから殴られたみたいに。
 ……処分? 処分って……殺されるって言うこと?
 ショブンサレルトコロダッタ……? ナニヲイッテイルノ? ワタシハコロサレルンダッタノ?
 ドクン。ドクン。心臓の鼓動が全身で感じられるほど激しくなった。
 動揺していることを悟られたくなかったけど、意に反して肩や膝にどうしても力が入ってくる。そうしていないと震えを止められない。
「一体どういうこと?」何とか言葉を搾り出した。
「君は悪霊に取り付かれた後、どうやって犠牲者を殺し、どうやって自分が取り押さえられたか覚えてはいないだろう?」
「ええ、覚えていないわ。あの日、いきなり目の前が暗くなって、気がついたら血に染まったまま拘束台に縛り付けられていた……」
 あの時のことは今でも忘れない。目を覚ました私とたまたま最初に目が合った僧兵の目は、明らかに敵対者を警戒する目だった。目が覚めたときは何が起こっているのかさっぱり分からなかった。体中ものすごく痛かったし頭は破裂しそうなほどガンガンして身動きも取れない状態で、とても怖かった……。私が悪霊に取り付かれて殺戮を行ったということは全て後から聞いたことで、私には覚えのない痛みと返り血以外には何の自覚もなかった。
「でも、どうして?」
 ガーリンは少し間をおいた。祈るような仕種をし、聞き取れないような祈りを捧げ、そして更に神妙な顔つきになった。
「二十三年前、君は処分されるところだったがある男の力で処分を免れた。しかし結果的に男は命を落としたんだ。その男は自分のことは君には黙っていてくれと言いながらこの世を去った。『マレリアはただでさえ常人には計り知れない十字架を背負って生きていかなければならない。だから、自分のことを話してさらに何かを背負わせたりする必要はない』という言葉を残してね」
「……いったい……何のこと?」
「神殿の地下で拘束から開放されるとき、絶対に肌身離さず持っていなさいと言われたタリスマンはもちろんまだ持っているね?」
「ええ」
 私は首飾りにしてそれを持っていた。これは強力な魔除けで、これを身に着けている限り悪霊ごときに憑依されることは今後二度とないと言われたもので、何があろうとも、今までにただの一度も外すことなく身に着けていた。ガーリンに言われて、私は服の下の胸の辺りにあるそれに右手でそっと触れた。
「君が悪霊に取り付かれミルレスの広場を犠牲者の血で染めていた時、その場に五人の冒険者が現れた。私もちょうどそこに駆けつけたのだが、その中の一人の冒険者は、魔術師としての経験はともかく霊媒術や呪術、除霊には長けていた。私と冒険者達の目の前で、君に憑りついた悪霊は、十八人目の犠牲者となった女が身を挺して守った赤子を、十九人目の犠牲者にしようとしていた。その時、魔術師は魔術とは違う力で瞬時に君の前に移動し赤子を救った。君に取り付いた悪霊は激昂し魔術師の背中に大きな傷を与えたが、魔術師は何とかそれに耐え、君に憑りついた悪霊に術を施して動きを封じたのだ。しかし動きは封じられたのだが、悪霊は君の心の奥底にまで憑りついていたらしく、また魔術師も深傷を負ったためそれ以上は思うように力を発揮出来なかった。そこでカレワラの魔女を大至急呼び寄せて君に憑りついた悪霊の除霊をお願いすることになった。君に取り付いていた悪霊自体は非常に低級なものであり、カレワラの魔女によって難なく祓われたのだが……。カレワラの魔女が曰く、『このような子供がこんな巨大な力を持ったまま霊媒術も除霊術も呪術も修めていないとは、なんということか。ミルレスは霊媒についてここまで知識が不足しているとは驚いた。悪霊に憑依してくださいとお願いしているようなものだ。一度でも悪霊に憑依されたものは今後もたやすく憑依されてしまうだろう。そして何度でも同じ災いをもたらすことになる。もうこの子は人の世界では生きていけない。残念だが、せめて苦しむことのないように楽にしてあげなさい』ということだった」

 信じられなかった。
 さっき、私はなぜ自分を殺してくれなかったのかと言ったはず。でも、ガーリンの話を聞いて急に怖くなってしまった。私はあんなことを言っておきながら、自分が死ぬのが怖くてたまらない……。あの時、私は処分されようとしていた、そう思っただけで足がガタガタと震えてきた。死にたかったはずなのに、今生きていることを安堵して、また涙が流れた。そして生きていることを安堵する自分が許せなかった。
 十八人の犠牲者を殺しておきながら私はなぜ生きていることを安堵なんて出来るのか。私はなんて臆病で身勝手で弱い人間なんだろう。

マレリア……。大丈夫かね?」
「だ、大丈夫よ。それより……話を」
マレリア。辛いことを思い出させすぎた。本当に済まない。また後日にしよう」
「冗談じゃないわ。こんな辛い思い、先延ばしにされたら私は必ずミルレスから逃げるわよ? いいから続きを教えて。なぜ私は生きているの? カレワラの魔女もさっさと殺してしまえって言ったんでしょう?」
「な!? さっさと殺してしまえっだって? そのときの魔女の名誉のために言っておくが、彼女は大粒の涙を流しながら私達に訴えたんだ。なぜもっと早くこの子を私達に預けてくれなかったのか、そうすれば誰も死なずに済んだと。それをそんな風に言うのはやめてくれないか。私達のことはいくらでも責めてくれて構わない。だが私だって人の子だ。全てに対してそういった態度を続けられては落ち着いて話を続けられない」
「……悪かったわ。ごめんなさい、どうしても気が立ってしまうの。でも、事実、カレワラの魔女は私を殺すしかないって言ったんでしょう?」
「ああ。私は魔女の言葉に戸惑ったが、当時の教皇様や最高神官様、枢機卿の面々、もちろん町長や君のご両親、全てに事情を話して、速やかに答えを出さなければならないと迫るしかなかった。その結果、もはや処分も仕方ないという結論に至ったんだ。なんとかならないかといろいろ考えたんだが、結局全員が……諦めたんだ。あの時の君のご両親は、言葉は悪いが本当に気が触れたのかと思った。娘が悪霊に憑りつかれて町の人たちを惨殺し、そして今、娘も殺されようとしている。少なくとも君の母上は、君を殺すしかないと決まった瞬間、完全な錯乱状態だったよ。その時の魂が張り裂けたかのように叫んだ言葉を今でもはっきり覚えている。『セオ神よ! 私は娘の処刑執行書にサインした! 今すぐに私を断罪し、地獄へ叩き落したまえ!! さもなくばこの世の全ては偽りだ! この世に罪などあるものか! 全て戯言だ!! さあ、娘と共に私を地獄へ叩き落せ!!』と。皆、胸が一杯になったよ」
「……」
 また涙があふれてきた。……母さん……。私も、母親になった今なら、そんな母さんの苦しみが分かる気がする……。自分の娘がそんなことになったら、なんて、考えるだけで悲しみが私の胸を覆って心臓が止まりそうになる。

「君は悪霊を祓われた後も意識を取り戻していなかった。憑依されている間の君の動きは尋常ではなかったので、激しい疲労によって昏睡状態に陥っていたのだろう。カレワラの魔女は、意識が戻るまでに済ませてしまったほうがいい、意識を取り戻すとまた悪霊が君の力を目当てに寄って来る、と言った。最後の別れの言葉すらかけることは出来ないということだった。仕方なく、我が国には処刑執行人がいないのですぐにルアスから来てもらった。処刑人は覆面を被り声も一切出さず、筆談のみで我々にいくつかの指示を出した。処刑人は君にもしっかりと覆面を掛けさせた。彼らとて好きで処刑を行うわけではない。処刑される者の顔を見てしまってはそれだけで非情になれなくなる恐れがある。彼らはただひたすら、指定された相手の首を見事な太刀筋で瞬時に切り落とすだけだ。私は処刑人に、絶対に苦しまぬようにお願いしたいと頼んだが、処刑人が書いて見せた言葉に何も言い返せなかったよ。『それを願うのならばなぜ殺すのか。茶番であれば帰るがどうするのか?』とね。背筋が凍りついたよ。処刑人を呼ぶということがどういうことなのか、改めて目の前に叩きつけられたようだった。私達は君に覆面を被せた後、指示されたとおりに棺桶を用意し、処刑人を君のところへ案内したんだ。するとそこには、君に憑りついた悪霊から赤子を救い、そして悪霊の動きを封じた魔術師が他の仲間たちと共にいたんだ」
 今は話を聞いているだけなのに、怖くてたまらない。なんだか今にも殺されそうな恐怖感が襲ってくる。
マレリア?」
「聞いてるわ」
「……これで拭きなさい」
 ガーリンがハンカチを差し出した。私は震えている手でそれを受け取り、顔を拭った。そして、そのままハンカチで顔を覆ってしまった。
「拘束台に縛り付けられ、覆面を被らされ、意識を取り戻していない君の傍らにいた魔術師。名はギルベルト。彼は赤子を救うときに受けた傷で治療を受けていたはずだった。悪霊に負わされた傷は聖職者の治癒魔法がほとんど効かない。おそらく、凄まじい痛みだっただろう。どう考えても助かるとは思えないほどの傷だったからね。同行していた冒険者はギルベルトに無茶をするな、その体では無理だ、と言っていた。私は一体何をするつもりなのかと尋ねた。ギルベルトは知っていたのだ。悪霊に取り付かれてしまった者はまたすぐに悪霊に取り付かれて災厄をもたらすので、ほとんどの場合殺されてしまうことを。なぜならば、彼の母もまた、スオミで悪霊に取り付かれ数人の町の人を殺してしまったからだ。彼の母も、君と同じように処分してしまうしかないという結論になり……殺されたのだ。ギルベルトは当時、母を救うためのある物をどうしても作ることが出来なかった。それさえあれば彼の母は死ななくても済んだのに……。何のことか分かるだろう?」
「この……タリスマンね……。これさえ身につけていれば一度悪霊に憑依されても二度と悪霊に憑依されることはないから」
「その通りだ。後から彼の仲間から聞いたことだが、彼は言っていたそうだ。あの時、自分がタリスマンを作りさえすれば母は助かったはずだ、と。もちろん彼はタリスマンの作り方は十分に熟知していた。だが、当時はとても怖くて作れなかったそうだ。彼はずっと後悔を背負って生きてきたのだ……。普通に考えればおかしな話だと思うだろう?」
「ええ……思うわ。何が怖いのかよく分からないけど、母親が殺されるなんていう時に、一体何を恐れたのかしら? それに、そのギルベルトさんが作れなかったのなら、他の人が作ればいい」
「そう、ただそれだけのことだ。そのタリスマンの作り方は別に秘密にされているわけでもなく、スオミの一部の霊媒師なら知識としては知っている。ギルベルトが作れないなら他の誰かが作ればいい……。ただし。そのタリスマンを作るために不可欠なのは、作ろうとする者の魂だ」

 ……ま、まさかそんな……

「少し話を戻そう。処刑人と共に君の元に向かうとそこにはギルベルトと彼の仲間がいた。ギルベルトは私と処刑人がやってくるのを見るとこう言った。『処刑人か……。やはりそうなるのか……。頼みがある。部屋を用意してくれ。この子が意識を取り戻すまでに俺が護符を作る。その護符があればこの子が悪霊如きに取り付かれることは金輪際、二度とない。もしも護符を作るのが間に合わずこの子が意識を取り戻してしまったら、すぐに眠らせて……悪霊が憑りつく前に……頼む……』仲間の一人の聖職者はなおも訴え続けた。その体では絶対に無理だ。無駄死にする気なのかと。だがギルベルトは聞き入れなかった。そして、私に部屋を用意するように頼んできた。『その護符があればマレリアを助けることが出来るのか! ならば是非それを作ってやってくれ! もちろん部屋は用意する!』と……私はギルベルトに言った。仲間の聖職者はそんな私を親の敵のように睨み付けたものだよ。その時の私は知らなかったのだ。タリスマンを作るということがどういうことなのかを。だが、仲間の冒険者達は知っていたようだった。殺意を剥き出しにして私に詰め寄ろうとする聖職者を仲間の騎士が制して言っていたよ。ギルベルトが決めたことだ、と。彼の仲間はギルベルトから口止めされていたのだ。『タリスマンを作るということは死ぬということだ』ということをもし私達が聞いてしまえば、私達はもっと辛い選択をしなければならなくなるから……。何度も言ったが、ギルベルトの傷はかなり深かった。悪霊から受けた傷は聖職者の治癒魔法も通用しない。おそらく、ギルベルトは自らの体に呪術を施して激痛に耐えていたのだろう。そしてたぶんギルベルトは、もう自分は死ぬであろう事も悟っていた。仲間の冒険者もそれを理解していたようだ。聖職者だけは何としてもギルベルトを止めたかったようだが……それもそのはず、その聖職者とギルベルトは婚約していたんだそうだ。ギルベルトは泣きじゃくりながらすがり寄る聖職者を振り切り、私が用意した部屋に一人で入っていった。タリスマンが完成するまでは絶対に入ってくるなと言い残して。私も、教皇も最高神官も、もちろん君の両親も、ギルベルトがタリスマンを作り上げるのを祈るように待った。途中、いくつかの材料を届けに彼の仲間の戦士が何度か出入りした。そして数時間ほど経った時、彼から全員に精霊話術が届いた。『完成した』と。だが、彼は部屋からは出てこなかった。そして最後に彼が精霊話術で皆に残した遺言はさっきも言ったとおりだ。『マレリアはただでさえ常人には計り知れない十字架を背負って生きていかなければならない。だから、自分のことを話してさらに何かを背負わせたりする必要はない』……私は、彼の遺言を、、、破ってしまった」

 ガーリンの目から涙が零れ落ちた。私もとても耐えられなくなっていた。ハンカチがどんどん涙で濡れていった。ガーリンは小刻みに震えながら両手で顔を覆い、こみ上げてしまった感情を吐き出すように大きく息を吐き出すと小さくつぶやいた。
「すまん、ギルベルト……。許してくれ……」
 二人とも、しばらくの間沈黙していた。
 さほど時間は経っていないのに、かなりの時間を沈黙のまま過ごしたような気がする。
 私の代わりに死んでくれた人がいたなんて……
 なんでそんなことが出来るんだろう?
 私は死ぬのが怖くて怖くてたまらないのに……
 でも、その恐怖すら乗り越えて私の為にこのタリスマンを作ってくれた。
 私は服の下からネックレスを引き出し、タリスマンをもう一度よく見た。光が当たると真紅に輝く神秘的なそれを、私は自分を守るための護符だとしか思っていなかった。でもこれは、ギルベルトという魔術師が生きた証でもあったなんて……。
 彼には婚約者がいたという。私なんかよりその婚約者が持つほうが相応しいような最後の形見を私の為に作ってくれた……。
 私の中で何かが崩れていくような気がした。
 自分のことばっかり考え、自分ばっかりが不幸だと思うために必要な心の鎧を、ギルベルトが砕いてくれたんだろうか。私は止め処なく流れる涙と共に打ち砕かれた心の鎧の残骸が流れていくような気がしていた。もう十数年も辛くて憂鬱だった気持ちが嘘のように、長かった冬が終わるかのように……私が変わっていく……。いいえ、本当の私が戻ってくるよう。
 私はどれほどの感謝をすればいいのだろう? 何も知らなかったとはいえ、何故自分を守ってくれるタリスマンに感謝することがなかったのだろう? 当たり前のように首に下げていたタリスマンに捧げるべき感謝が欠けていたのと全く同じように、自分から欠けてしまっていた何かが心の奥底から湧き出てくるようだった。そして、いつの間にかタリスマンを握り締め、ギルベルトという魔術師のことを想い、そして、精一杯の感謝の念を送っていた。
 不思議なことなんだけど、何故だろう。そうやってタリスマンを握って感謝をすればするほど、まるでギルベルトさんとタリスマンが私の存在に赦しを与えてくれるような気持ちがした。だから、何度も何度も感謝した。どれだけ感謝しても足りないと分かっていても、そうせずにはいられなかった。いつの間にか、涙も流れるがままになっていた。

 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 時間の感覚がなかった。すごく長い間そうしていた気もするけど、実際にはまだそんなに時間は過ぎていないみたい。ふと、どちらからともなく、互いに落ち着いたのを確認するように相手の顔を見た。どことなく、ガーリンが少しだけ身近に感じた。
「……マレリア、タリスマンを見せてくれないか?」
「えぇ、これですわ」
 なぜか自分が吹っ切れたような表情をしている気がした。ガーリンに言われるまでもなく、是非このタリスマンを見て欲しかった。ガーリンにもギルベルトの生きた証を見て欲しかった。
「……美しい色だな。力が漲るような、素晴らしい真紅だ」
「はい。今までの私には勿体無い素晴らしいタリスマンです」
「今までの?」
ガーリン、手に平を返すような私を笑ってちょうだい。でもね……」
 私はまだ涙声だったけど、教皇の目を真っ直ぐに見つめ、そして気持ちを引き締めて言った。そうしなければならないと思ったから。
ガーリン教皇様。私は、今までの私とはお別れしようと思います。まだ気持ちの整理が出来たとは思っていませんが、私は自分の殻に篭ってばかりだったような気がします。私は死ぬのがこんなに怖いのに、命を捨ててまで私を助けてくれた人がいると思うと……。今のままの自分じゃせっかく助けて頂いた命が勿体無く思えてきました。いきなり変わることは出来ないかもしれませんが、今はもっと前向きに生きなきゃいけないと思うのです。ギルベルトさんが命を掛けて作ってくれたこのタリスマンを持つのに相応しい私でありたいから。ガーリン教皇様、私如きがどこまで出来るか分かりませんが、是非協力させてください。マイソシアのために、私に出来ることの全てで」
「……あぁ、マレリア! ありがとう! 心から感謝するよ!」
 そして、おもむろに私の手を握ってきた。
 私も精一杯、最高の笑顔でガーリンに答えた。さっきまで酷いことばかり言ってた自分が信じられないくらい、素直な気持ちが心の中で広がっていく。
「こちらこそ、ギルベルトさんの話を聞かせていただいて目が覚めた想いです。機会があったらギルベルトさんのお墓にも案内してください。お礼を言わなきゃいけないわ」
「わかった。間違いなくそのようにするとも。そして、未だに君や君の亡くなった両親を侮辱する者をこれ以上はのさばらせない。現状は即ち私達の怠慢そのものだ。今までの分をしっかり取り返すようにするとも。霊媒師についても広く理解されるように町の人たちにもっとよく知ってもらおう」
「ありがとうございます。ガーリン教皇様」
 私もガーリンの手を握り返した。本当にうれしかったから……。
「あ……あ、すまない、つい……」
 ガーリンは突然私の手を握っている自分に気づいたのか、手を離して視線も逸らしてしまった。いまさら照れても遅いわ! 私ってば元々惚れやすいんだから。
「いいの。今みたいに誰かに手を握ってもらえたことなんて何年振りかしら」
「いや、あの、違うんだ、って、違うってそういうことじゃなくて、つまりその……」
 かなりの年齢みたいだけど、ものすごい照れ屋さんみたいね。
「そ……そうだ! そう、そうだよ。えっと、協力感謝する。今の時点での、えっと、なんだ。そうそう、今の状況を説明するよ」
「……ハハハ、アハハハハ! ガーリン! あなたってかわいいのね!!」
「からかわないでくれ! 説明するから! な!?」
「分かったわ。続けて……ク、フフフフ……」
 さっきまでの私よ……さようなら……


 ガーリンは今の状況を一通り説明すると、後日私を迎えに来るためにこの家の客間を記憶の書に記録して玄関から帰っていった。大聖堂の聖堂員とはいえ、女性が一人でいるところに男が入って出てこないのでは悪い噂が立ちかねないといって。だからガーリンは先に来たオードライドと同じような服装で来ていたんだ。
 ガーリンは玄関を出るとすぐにゲートを使って帰って行った。私はガーリンを見送り、なんとなく晴れやかな気持ちで客間に戻った。
 あぁ……私ってもっと素直な子だった気がするなぁ……どんなにいやなことがあっても、いつもすぐに気持ちを切り替えて、今みたいに晴れ晴れとしてた!

マレリア!)
(レミトポ……さっきはごめんね。せっかく声を掛けてくれたのに酷いこと言っちゃったわ)
(ううん! そんなの気にしてないよ! それよりね、ほら!)
 といってソファの方を指差した。そこには……あぁ、レミトポ! なんてことを!
 そこには、昔の大好きな精霊たちがみんな来てくれていた。
(おかえりーマレリアーー!! まってたよ!!)
(よかったぁーもうお話できないかと思ったよーうわーん!)
マレリアー!! 久しぶりだね!!)
マレリア!! また遊ぼうよ!! 昔みたいに笑おうよ!)
(ねぇねぇマレリア、僕のことは覚えてるかい?)
(あんたのことなんか忘れていいのよ! 私のことはもちろん覚えてるでしょ!?)
マレリアだーやっとミルレスに帰ってきたんだー)
マレリアってばさー、レミトポばっかりと話するんだもん! もう僕のこと嫌いになったのかと思ったよ!)
(やっと私達のことも見てくれたね!)

(みんな……みんな……ありがとう……ただいま!! もちろんみんな覚えてるわよ! 誰一人として嫌いになんかなったりするもんですか!! ……みんな、あんまり泣かせないでよ! もう、たくさん泣いたのに!!)
 私がそう言ったら、みんなが声を揃えて言うの。
(泣かせたりしないよ! みんなで笑うんだよ!!)
 ハンカチ、まだ返してなくて助かったわ。
 ほんとにみんな、ありがとう……そして、ギルベルトさん……心から感謝します。
 
 
 

 

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WEB拍手
作者がお話を書く活力になります。何卒m(__)m
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