#24 死神1 [---・3年前]
posted by GEM at 2005年10月29日 14:50
突然、神殿全体に異質の気配が満ちた。人であれば無条件に平伏してしまいそうなほどの神々しい威厳。正に神の降臨であると、そこにいる全ての人間の魂が無条件で感じた。
「……これは? ミュレカン神様!?」
ミュゼリアが思わず声を出した。ミュレカン、その神の名の響きを口にした途端、他の者は一様に感嘆の声を漏らした。だが、デムピアスだけは違った。
「いや、ミュゼリア。マレリアはまだ術の途中に見えるんだが……。全員、油断するな!」
デムピアスはすでにパンテラ改を伸ばして臨戦態勢になっている。
刹那。
魔法陣の中心から見て北の方向。黒い影のようなものが瞬間だけ現れ、そして消えた。影だけは辛うじて誰の目にも確認できたがそれがどこから表れてどこへ消えたのか、そしてそれが何であるのかは誰にも分からなかった。
運悪くそこにいたというべきなのだろうか。影の見えた所にはシャオリンの師範ファセウがいた。彼はおおよその事態に対応できるよう十分に警戒していたし、シャオリンの師範を務めるだけのことはあって、普通の冒険者がその時の彼に指一本触れることは出来なかっただろう。
だが、ファセウの首は、黒い影以外には何の前触れもなく背後に転がり落ち、エリオの方へ転がっていった。首からは鮮血が噴出し、頭を失った体はその場で少しふらついたかと思うと、まさに肉の塊をどさっっと投げ捨てるような音を立てて前のめりに勢いよく倒れた。
「……ヒッ……な……、な……」
いきなり切り落とされた男の首が、エリオの目の前に白目を剥いて転がってきた。かなりの数の修羅場をくぐってきたエリオでもさすがに驚きを隠せない状態だったが、すぐに気持ちを切り替え、頭部を丁寧に持ち上げて泣き別れになった胴体の脇に屈みこんだ。
「リーゼッタ枢機卿! 一応蘇生を行ってみますので補助はお願いします!」
エリオが一応と言っているのは、いくら蘇生魔法とはいえ、首を切り落とされてしまったような死体の蘇生などは、少なくとも冒険者レベルの略式では不可能であると分かっているからだ。正式の蘇生魔法でも望みは薄いと考えられるが、エリオは正式を試そうとしている。*1
言われた方のリーゼッタも、あまりに突然のファセウの死にしばし呆然としていたが、エリオの声にはっと気づき、そして頷いた。首が落ちるような肉体のひどい損傷は想定していなかったが、この戦いにおいて蘇生を一度も行うことなく済むとも思っていなかったので、必要以上に動揺することはなかった。
だが、シャオリンのメンバーは違う。指先一つ動かすことなく首が転がり落ち肉の塊と化したのは、『シャオリンの師範・ファセウ』なのだ。メンバーは皆、シャオリンの師範という者が持つ無尽蔵の強さを知っているのだ。その師範の首を、まるで雑草でも刈り取るが如くあっさりと落としてしまうような何者かが、
ここにいる。
「何が起こったんだ!?」
「ひ……ファセウ師匠……そんな……」
「そんな馬鹿な。いつの間に……」
「うわ……うわぁぁあああああ!!」
一瞬にしてシャオリンのメンバーに動揺が広がり始めた。うろたえるメンバーにジンメイの喝が飛ぶ。
「うろたえるな! それでもシャオリンのメンバーか! 冷静になれ!」
シャオリンのメンバーは、戦闘時には絶対服従すべきマスターの言葉によって少しずつ平常心を取り戻しつつも、動揺は完全には収まらない。師範が手も足も出ない相手である。自分達に何が出来ると言うのか……。そう思うのが当然だった。
デムピアスは術に集中していて騒ぎに気づくことも出来ないマレリアの背後に移動して彼女を守っている。
(ジンメイ、君は今、何か見えたかい?)
デムピアスがあたりに気を配りながら、動揺を広げないよう精霊話術でジンメイに尋ねる。
(全然。一瞬だけ黒い影がチラッと見えただけだ。まぁ多分あれが死神だろう。でも、想像していた感じとは全く違う気配だな。もっとこう、おどろおどろしいモンを想像してたんだが……。この気配は、むしろ昔一度だけ行った事がある神殿の地下みてぇだ)
(確かに……。僕も同じように思ってたよ。と言っても神殿の地下には行ったことないけどね。しかし、君までもが影しか見えなかったのか)
(あんたは見えたのか?)
(見えたものは君とほとんど変わらない。影だけさ。だが、攻撃してくる瞬間の殺気は何とか読み取れた)
その瞬間、またドサリと音が二つ。外周を守っていたシャオリンの二人が、ファセウと同じように首を刎ねられている。デムピアスの背後だったためもちろんデムピアスにも見えなかったのだが、今度はデムピアスでさえ微塵の殺気すら感じられなかった。
「チッ、今のは全く分からなかった……。いくら背後とはいえ、さらに殺気を消せるんだって自慢されてるみたいだね……。ここまで気配を殺されるんじゃ、鞭は不利だ……」
攻撃範囲が広く威力も高いのだが、初撃から威力を発揮する為には必ず予備動作が必要な鞭では分が悪い。デムピアスはパンテラ改を右手の義手にしまった。そしてスワロウテイルを抜き、普段なら絶対に装備しないディスシールドをバックパックから取り出して左手に構えた。まだ降霊を続けているマレリアを守るためにはそこから動かずに攻撃を防がねばならない。
「まじかよ……ガーリン、その二人を蘇生できるか?」
ジンメイが言うのだが、エリオはそれを止めた。
「ジンメイ、ガーリン教皇……。無理だわ。魂が全く反応しないみたい。神官様の加護も完全に消えてしまっている。それに……、見て……」
エリオはファセウの傍に屈んで蘇生を行っていたが、そのファセウの体と切り離された首は見る見るうちに灰になってしまった。そして、外周で倒れた二人も同様に灰になってなくなっていく。そしてその灰は大した風も吹いていないのにさらさらと舞い散ってしまった。
「これが、死神の力なの? 殺すだけじゃなく、灰にしてしまうなんて……。これじゃぁ、蘇生魔法なんて無意味だわ」
「ファセウ……チャカラ、ロファル……。なんてこったクソ! シャオリン! 見えないものを見ようとするな! 神経を研ぎ澄ませ! 感じ取るんだ!」
ジンメイもその言葉に無理があることは分かっている。見えないものを見ようとしない、その程度のことはシャオリンのメンバーなら言われるまでもなく分かっているのだ。実際、殺された三人も見えないものを見ようなどとしていなかっただろう。問題なのは、デムピアスも舌を巻くほど相手に全く殺気がないことと、おそらく相手が速すぎる等の何らかの理由で相手の最初の一撃を受けられないことなのだ。いや、受けられないどころか反応すら出来ない。斬撃音すらないのだ。その一撃だけで首を切り落とされ、さらに蘇生不可能な確実な死につながる。
ほとんどの冒険者や騎士団等の魔物と戦うものは皆、信じられないような無茶をする者でさえ心のどこかでは思っているのだ。たとえ死んでも蘇生してもらえばよいと。と言うより、蘇生というものがなければ冒険者になろうとするものなどほとんどいないだろう。冒険者とは言え、本気で死を覚悟して命のやり取りが出来る者などほとんどいないのだ。そしてそれは、シャオリンのメンバーにも同じことが言える。
本物の死が迫っている!!
速やかで無慈悲な死が、三人の仲間に事実訪れたのだ。
シャオリンのメンバーはもはや完全なパニックに陥っていた。我先にと自分の持ち場を離れ、広場からどこかへ逃げようとしている。まさにクモの子を散らすように……。
「ヘイル、リギオン! 持ち場を離れるな!」グリハラの怒号が飛び、
「マーベル、トムタム、アーマンタ! 今逃げるんなら俺が止めを刺すぞオラァ!?」残った三人の師範で最も血の気が多いマグダルが叫ぶ。
だがジンメイはクリガンとマグダルを制した
「無理だ。行かせろ。一度逃げちまった奴はこの戦いは無理だろう。それにな、今ンところどうしようもなく分が悪いんだ、これ以上無駄死にさせるわけには」いかねぇ
最後まで言葉が出なかった。
方々に散って逃げ出した五人それぞれが、いきなりその場で事切れた。ファセウやチャカラなどとは違い、首を切り落とされたと言うような状態ではなく、いきなりその場に倒れたのだ。いや、崩れ落ちたというべきだろうか。苦しむ様子もなく、最後の雄叫びを上げることもなく、かといって眠る様でもなく……その様子は、人の形をした肉の塊をそこに無造作に捨てたようだ、という表現が最も正しい。
師範の一人チェイピンの言葉が虚しく響く。
「ヘイル! リギオン! ……どうしたんだ! 返事をしろ!! マーベル! トムタム!」
だが、五人の誰一人としてそれに答えるものはいなかった。アーマンタにいたっては倒れ込む勢いで首が背中の方へ折れてしまっている。生きている人間であれば倒れるときには無意識に体を庇うものだが、そんな動作は全くなかった。他の四人もありえない倒れ方をしている。あまり考えるまでもなく、五人はもはや死んでしまったようだ。
「……どうなってるんだ……、死神にやられたのか? だが、彼らは魔法陣の外だ……。死神は魔法陣の外には出られないのじゃないのか……?」
グリハラがそう言っている間に、五人の体は見る見るうちに灰となり、先に首を切り落とされたファセウ達のように骨も残さず消えた。
デムピアスが叫ぶ。
「ガーリン! ミュゼリア! そこの小さい魔法陣じゃ危険かもしれない! こちらの魔法陣の中に入るんだ! そしてマレリアを守ってくれ! まだミュレカン神の降臨は終わってないらしい! ゼッタ、それからエリオ枢機卿もマレリアの方へ!!」
デムピアスの言うとおり、マレリアはまだ目を閉じて両手で複雑な印を組んだまま動いていない。
「ミュゼリア、行こう!」
「はい!」
二人はデムピアスの元へ駆け出した。どうせ見えない敵ならば周りを注意しても仕方ない。とにかく一目散に走ってデムピアスとマレリアのいる魔法陣の中央へ駆け出し、そして二人は幸いにも無事に魔法陣の中央にたどり着いた。ガーリンもミュゼリアもせいぜい数十メートル程度を走っただけなのに、数キロを走り抜けてきたかのような苦しそうな顔をしている。
今、魔法陣の中央ではマレリアが依然として社に向かっている。そして、そのマレリアを囲む五人。北にエリオ、東にデムピアス、南にガーリンとミュゼリア、西にリーゼッタ。エリオの左右にはグリハラとマグダル、リーゼッタの左右にはチェイピン、ジンメイがいる。一応、マレリアを中心として全方位に備えている。
マグダルは辺りに細心の注意を払いながらも思わず呟いた。
「んな馬鹿な、信じられるかよ……。俺達ぁシャオリンだぜ? いくら門下生と師範になりたてのファセウっつったってよ、手も足も出ねぇだと?」
チェイピンがそれに答える。
「だが、それが事実だ。何がどうなっているのかわからんが、ヘイル達のように突然死させられるかもしれないし、受けて立とうにも初撃を受けられる見通しは立っていない……、このままじゃ全滅だ……。ミュゼリア様、マレリア様はまだ掛かりそうなんでしょうか? ミュレカン神はまだ降りないのですか?」
「もうそろそろのはずです。社の上から降りている光がどんどん強くなってきているから……。でも、神を降ろすところなんて初めて見るから、実際のところは分からないの」
「一気に八人……。くそ! こんなこたぁ武門シャオリン始まって以来だろう。しかも、甦生出来ないどころか灰になっちまうなんて聞いた事もない……。いいか、気ぃ引き締めろ。シャオリンはぜってぇに負けねぇ。確かに見えないし気配も殺気も感じられない。ファセウを殺られたのも痛い。だがな、それでも俺らは負けん」
その時、ジンメイの背後から声が響いた。
「負けぬ、だと? 私がこれだけ近くにいても気付かぬのにか? 汝は多少は出来るかと感じたのだが、これでは余興にもならん」
皆の頭に死神と思われる者の声がはっきりと響いた。だが姿は見えていない。皆が注意深く辺りを見回すが、ジンメイはじっとしていた。死神の大鎌が目にも止まらぬ速さでジンメイの首に振り下ろされようとしているのを、デムピアスが気づいた。
「ジンメイ!!」
デムピアスは叫んだ。
その大鎌の切先を見ることが出来たのはデムピアスだけであり、ジンメイも見えてはいない。だが、ジンメイは待っていたと言わんばかりに右腕だけでその大鎌を受け止めていた。なぜその初撃を受けられたのかは本人であるジンメイすら分かっていない。本能のなせる業だったのか、それとも、これこそがシャオリンの総師範たるジンメイの実力なのか。
右腕に装備していたヴィヴィルユング*2
が粉々に砕け散ったが、右腕はセイリュウの鱗で出来たスケールアーマーで完璧に守られている。そのまま大鎌の刃の部分を強引に毟り取った!
「なんと……我がデスサイスを受けただけでなく、破壊するだと?」
死神の表情は変わったりしないのだが、その言葉には微妙に驚きの感情を感じ取ることが出来る。
ジンメイは大鎌の刃を魔法陣の外に投げ捨てながら叫んだ。
「デムピアス!」
その言葉よりも早くデムピアスは動いていた。
「スパイダーウェブ*3
! ついでにぃ~! ポイズン*4
!! そしてマスターシャドウ*5
!」
デムピアスのスパイダーウェブによって死神はその場に足止めされ、さらにポイズンの効果によってデスの体中から効果を発揮し始めた深い緑の毒素が立ち上り始める。デムピアスはマスターシャドウによってそのまま姿を消した。
間髪いれずにリーゼッタがジンメイを触媒として死神に攻撃を仕掛ける。
「リベレーション! リベレーション! リベレーション!!*6
」
リーゼッタはそのまま数発のリベレーションを放った。略式発動の術は威力が正式に劣るが、連発できる利点もある。瞬間にジンメイの体が光に包まれ、ジンメイのすぐ背後にいた死神に向かって強烈な衝撃波が次々と放たれる。
「ぎゃ! ぐお! ぐはぁ! やめろぉ!!」
多少は効いたのか、死神が声を漏らす。リーゼッタとエリオはもしかしたら聖職者の攻撃は死神には通用しないのではないかと懸念していたが、効果はしっかりあるようだ。二人は目を合わせると精霊話術で確認した。
(私がプレイアをかましてみるわ! それも効くようならパージフレアを重ねるわよ!)
(分かりました!)
ジンメイはリーゼッタのリベレーションが終わると、不敵な笑みを浮かべながら振り返るとそのまま目にも止まらぬ速さで死神の背後に回り込み、死神の脊椎に渾身の連打を叩き込む*7
。脅威の威力で打ち込まれる連打によって死神の骨が軋む音がはっきりと聞こえた。死神の体が仰け反った。
「師範! 畳み掛けるぞ!」
ジンメイの言葉に呼応して、三人の師範達は同時に「覚醒*8
」を行い攻撃態勢に入った。三人の闘気は一気に膨れ上がり、闘争本能が剥きだしになっていく。
そこにエリオが続ける。正式発動のプレイアである。
「偉大なる我が守護神、イアよ! 我が信仰とイアのお導きを汚す仇敵に絶対の神罰下し給え! プレイア!!」
正式発動のプレイアは詠唱自体は短い。しかし信仰の深さそのものが影響するため冒険者程度では発動できない。そして、正式のプレイアは略式とは違い、対象の正面で発動する必要はない。上からともなく下からともなく、死神の全身に強烈な衝撃が叩きつけられる。
「ぎゃああ!!」
死神は遂に肩膝をついた。そこに左右からグリハラとマグダルの技が同時に炸裂した
「爆烈剛衝破ァ!!*9
」
死神の頭を目掛けて、左右から完璧に呼吸の合った二人の技が叩き込まれる。右中段正拳突き、そして左足刀蹴り、そのまま蹴りを死神の頭に押し付けるように力を溜める。左右からの蹴りで頭を挟まれ身動きが取れない死神に、極限まで気を溜め込んだ打ち降ろすような右正拳突きが二同時に叩き込まれる。
「ぐは! や、やめ……待って……くれ……」
死神の言葉も虚しく正面からチェイピンが続ける。
「爆閃連衝撃!!*10
」
死神は腕もだらりと下がってしまい、まるで案山子のように防御することすら出来ない。チェイピンは正面からの右中段正拳突きを叩き込み、すばやい引き手で力を溜め込み始める。左手を力強く開いて目標に向ける、そして右足の踵で距離を測るように軽く死神の頭を蹴るとその足をダンッ! と地面につき、力を溜め込んだ右拳を目にも止まらぬ速さで数発叩き込んだ。死神は全てをまともに受けてしまった。
「……ぐああああ!」
死神の漏らす声を聞く限りではかなり有効だったようだ。だが、まだまだ攻撃は続く。相手が相手だけに、攻める方も手を抜こうとはしない。
エリオとリーゼッタは申し合わせたとおりに同時にパージフレアの正式発動の詠唱に入った。
「幽界に閉ざされし邪なる気に穢れたる者よ。神聖なる祭壇を汚す闇の者よ。我が仕えし神の名を聞け、……」
二人の詠唱は続く。詠唱が終わるまでは無防備状態だが、案ずる事はない。ガーリンが修道士とはまた違う僧兵独特の力強い構えから技を繰り出す。
「金剛連撃*11
!」
地面を一蹴りしただけで一気に死神との間合いを詰め、そのままの勢いで右掌底、右肘、左掌底、左肘、右膝、右足刀、左後ろ回し蹴り、右回し蹴り。息をもつかせぬ連続攻撃によって、死神は右に大きく蹴り飛ばされる。
「あ……あぁ……が……」
よろよろと起き上がろうとする死神にミュゼリアの声が響く。
「死神さん? そこで大人しくしててね! デイズハーモニィ*12
!」
ミュゼリアはスクルドハープで不気味な旋律を奏で、そのエネルギーを死神に放った。すると死神は短くうめき声を上げ、その場で四つん這いになり動かなくなった。いや、デイズハーモニィの効果で動けなくなった。
「いくぜぇぇぇぇ!」
ジンメイが気合を入れた。そして一気に死神に詰め寄ると、奥義を放った。
「エクスターミネーション*13
!!」
ジンメイの奥義の一撃に完璧にタイミングを合わせて、死神の背後からデムピアスのマスターシャドウ状態からの一撃も同時に叩き込まれた。
その瞬間、まるでそこで小さな爆発でも起きたかのように、死神の体はジンメイとデムピアスの奥義によって地面に叩きつけられ、その反動で体が跳ね上がった。
そこに、詠唱を完了したエリオが叫ぶ。
「いくわよ枢機卿!!」
宙に跳ね上がっている死神に対して、リーゼッタとエリオがずっと唱えていた正式発動のパージフレアが同時に放たれた。二つのパージフレアは相乗効果を生み出し、誰の目にもはっきりと分かるほど死神の周りに信じられないほどのエネルギーが凝縮していく。凝縮が極限まで達したとき、四つの光の玉のようなものが死神の周りに現れ、それは即座に死神の体に吸い込まれていった。
「ぎゃあああああ!!」
死神は断末魔の叫びを上げた。正式のパージフレアは略式のように邪悪なものを浄化するというよりも、魔術師の攻撃魔法とほとんど変わらない。対象に無慈悲で絶対的な破壊のエネルギーを叩き込む。散々ダメージを負わされた後にパージフレアを二つ同時に打ち込まれたのでは、これまでの立場は完全に逆転したと言えた。
死神はまるでぼろ雑巾でも落としたかのように地面に落ちた。
「死神? いや、デスだったか? 余興にもならんだと? 誰に向かって口聞いてんだ、この骨が」
ジンメイが吐き捨てた言葉に死神は全く反応しない。
「まさか、もう終わりなのか?? まだ俺達の怒りは収まらないんだが……」
グリハラの言葉にチェイピンが更に続ける。
「……ファセウの無念、ヘイル、リギオン……奴らの無念……この程度じゃぁ済まされん」
全員がピクリとも動かない死神に視線を向けていた。ジンメイが拳を死神の頭部に打ち下ろそうと構える。
「てめぇは地獄の闘将を怒らせちまった……。空っぽのドタマかち割ったらぁ。死ねや、骨野郎」
「人よ、そこまでだ! その者はもう虫の息だぞ! 殺す気なのか?!」
突然、そこにいた誰のものでもない声が響いた。
*1: 冒険者や騎士団等、魔物との戦いを行うものには全て神官の加護が施されており、余程のことでもない限り魔物の攻撃によって五体が損なわれたり内蔵が損傷を被ることはありえない。逆に言えば、この加護によって肉体の致命的な損傷を抑えられるからこそ蘇生魔法も可能なのであり、蘇生魔法は少なくとも肉体が最低限無事なことが基本的な前提条件である。また、蘇生魔法や回復魔法であっても冒険者の略式の魔法には切り落とされた腕などを戻すような力はない。正式ではそれが可能な場合があるが、どちらかと言えばそれは医術や魔術等の領域である。
*2: 上級の修道士が装備できるもので、ゲーム中では腕輪となっているが、実際には籠手である。
*3: 上級盗賊の敵を足止めする魔法。
*4: 対象に毒を与える。
*5: 長く姿を消し、不意打ちで次の攻撃の威力を増大させる。
*6: 仲間、或いは自身を媒体とし女神を降臨させ、その周囲の敵を攻撃する。
*7: 上級修道士の技、ラウンドアタック。暗殺拳。敵の背後に回り込み、致命的な一撃を与える。
*8: 闘争本能を開放し無呼吸状態で打撃を繰り出す
*9: 修道士のコンビネーション技。爆:異国より伝わる拳法の型の基本。「烈」「閃」へ派生させることができる。烈:敵の動きを止める鋭い蹴り。「剛衝破」「獄衝打」へ派生させることができる。剛衝破:力を溜めた後に強力な一撃を放つ。
*10: 修道士のコンビネーション技。閃:目標を見定めるための補足動作。「連衝撃」へ派生させることができる。連衝撃:連続攻撃能力を重視したコンビネーション。覚醒時に最大の能力を発揮する。
*11: 物語オリジナルの技。僧兵に伝わる連続技。
*12: 音波で全ての感覚を遮断し、しばらく麻痺状態にする
*13: 最上級修道士の奥義。多大なスタミナ(SP)消費と引き換えに致命的なダメージを与える究極の一撃を放つ。


