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#33 蘇生の謎 [フィオ]

posted by GEM at 2006年02月12日 23:46

「……思い入れの深い出来事でしたので、話にも熱が入ってしまいましたね」
 リーゼッタ枢機卿は結局二時間近く話し続けたのに、僕もティルダも、そして父上ルクセンも聞き疲れたりしなかった。というよりも驚きの連続で目が回りそうだ!

「そうか……酒の肴を先に食っちまったのぉ」
「申し訳ありません、ルクセン団長。せっかくの楽しみを奪ってしまいましたようで……」
「いやぁ、責めとるわけじゃあありゃせんよ。立場上少しずつ聞かされてもおったしの。そういう縁だったんじゃろうて。……で、フィオ?」
 ……すごい話だった。死神と三年越しの因縁を持つなんて、僕なら生きた心地がしないだろうな……
「おい、フィオ? 団長がお呼びだぞ?」
 机に肘を置いて物思いにふけっていると、ちょっと強めにティルダに突かれた。
「え!? あ、はい、なんでしょうか、父上」
「ほっほっほっ、まだお前には話の規模が大きすぎたかな?」
 いつもどおりの子ども扱いとは言え、リーゼッタ様とティルダの前でそう言われてちょっとだけムッとした。だけど、正直に答えた。
「悔しいですが……胸中を素直に申し上げれば、大きすぎたかと言われれば『はい』とお答えいたします。実際、三年前に既にあの死神と対峙しておられたなどとは、夢にも思うはずもございませんし、なによりあの死神がもう一度目の前に現れたらと思うと恐怖に身が震え上がる思いです。それを……追い払っていたなんて!!」
 そう、全く信じられない人たちだって、心の底から思うね。

「まぁ、追い払ったというのも微妙な話ですけど、ね」
 リーゼッタ様はなにか納得いってなさそうにぼそっと呟いた。僕は生きて帰っただけでも心から良かったと思ってるのに。僕は続けて思ったままの感想を述べた。
「今の私に死神追跡などといった命令が下りましたら即座に任を解いていただきますように懇願することと思います。あえて我侭のようなことを言えば、もうアイツには遭いたくありません」
 リーゼッタ枢機卿は僕の言葉に深く頷きながら聞いてくれた。そして言った。
フィオ、その気持ちはよく分かりますよ。私だって、もう一度あの死神の前に立てと言われても、今の立場さえなければ拒否したいですからね。あの時私があの場に最後まで居合わせることが出来たのは……単に死神のことを知らなかったからだと思います」

「ふむ……」
 父上はあごひげを撫でながらいつもの老人特有の穏やかな目つきではなく騎士団長のそれで聞いていた。少し考えたようだが、それについては何も語らず、今度は正面を向いた。
ティルダ副団長、お主はどうだ?」
「今の時点では具体的に何かを問われていないと思いますので感想として言わせていただきます。私は死神と言うものを見たわけではありません。ですが、意地っ張りのフィオでさえこう言うなら、もしも死神が目の前に現れたら私が心のうちに余裕を持っていられるとはとても思えません」
 人の意地っ張りを尺度にされるのもムカつくけど、言ってる事は良く分かる。
「なるほどのぉ」
 僕はそういう父上はどうなのかと気になった。
「……父上でしたらどうですか?」
「わしか? わしは是非一度手合わせ願いたいものじゃと思っておる。と言っても、体術ではジンメイらが圧倒したと言うのじゃから大した事はないのかもしれんな。厄介なのは死神の本当の力と言う奴じゃろう。ただ死ねと思われるだけでこちらは魂を消されてしまうのでは、思われた瞬間に終わり。ということは、死神に魔法陣とやらの制限がない場合、『やられる前にやる』という基本中の基本が根底から覆されるわけじゃからな」
 その通りだ。もしも今この瞬間に死神が現れたら、当然本当の力を防ぐことなんて出来ない。今のところ、魔法陣を用意してそこに呼び出す、というか閉じ込めない限り、勝ち目なんてないってことになる。
 しかし、我が父上ながら、なんて人だろう……。一度手合わせって、闘技場で強い相手を求めるのとは訳が違うと思うんだけど、この人には同じなんだろうか。

「ところで、フィオセリスミーナが倒れたときの状態について確認します。それぞれ体の損傷が激しかったという事ですが間違いないのですよね?」
 唐突にリーゼッタ様が聞いてきた。ちょっとなんていうか、仲間なんでこんなこと言っちゃ悪いんだけど……
「はい、セリスは臓腑が足元に垂れ下がっていましたし、ミーナは体を縦に三つに切り分けられていましたから」
「ふむ……。『墓標の幻影』は出現しましたか?」
「……墓標? あ、墓標、ですね? そういえば、出現していないと思います」
 ちょっと曖昧に答えると、ティルダが僕の目を覗き込むようにこちらを見た。
フィオ、『そういえば出現していない』って……冒険者にとってすごく大事なポイントだって分かってる?」
「いや、ごめん。僕は冒険者を経験していない『純騎士』だから、冒険者のセオリーには疎くて。墓標って言われてもピンと来なくてさ」
「へぇー。噂には聞いたことあるけど、純騎士ってのは本当にそんなもんなんだな……」
 僕はティルダに無言で「悪かったな」って視線を送った。

 冒険者の騎士の場合は戦士としての十分な力量を認められるまで騎士を名乗れない。でも、僕のように直接騎士団に仕官するという形をとる場合、条件をクリアすればいきなり騎士になれる。
 ただ、直接騎士団へ仕官する場合にも試験があって、実技・筆記・面接のどれをとってもスオミ魔術学院に進むより遥かに厳しいと言われてる。僕も(父上の名前があってもなお)三回落とされた。この難関を突破した騎士は、さっき言った「純騎士」って呼ばれたりする。
 ティルダのように冒険者の戦士を経て騎士になってから騎士団に仕官する場合には実技と筆記が免除される。
 両方とも騎士なんだけど、平均的な実力は冒険者上がりの騎士の方が高い。じゃあ何故苦労してまで純騎士になるかというと、聖騎士や近衛騎士等になるためには純騎士であることが条件なんだ。
 それに、あまり利用する人はいないけど、戦士を経験しなくてもいきなり騎士として冒険者登録できる唯一の方法だったりもする。
 と、ちょっと余計なことを考えてしまった。

フィオ、貴方は純騎士としては稀に見る成長を見せてくれました。さすがはルクセン団長のご子息というところでしょう。ですが若干、冒険者としての知識が少なすぎるようです。もちろん、まだ冒険者登録をして半月ということも知っていますが、そろそろ基本的な事は知っていて欲しいところですよ?」
 う~ぬ。基本的な魔物との戦いの知識が少ないから、冒険者登録をして仲間を見つけて魔物退治に行きなさいと言われたのに、今ここで知識が少ないことを言われてもなぁ、とは言えないので。
「はい、申し訳ありません」
 こんなときには父上は一切助けてくれないし庇ってもくれないんだよなぁ……。「そうだぞぉ?」と言わんばかりに僕を見ながらリーゼッタ様の言葉に頷いてる。
「この点を押さえないとセリスに話をすると言っても要領を得なくなってしまうかもしれませんからね。知っていることもあるかもしれませんが少し説明しましょう」
 なんていうか、しまった、と思った。リーゼッタ様は面倒見のいい人ってことで有名なんだけど、実際には若年寄っていうか面倒見が良すぎるんだよね……。もうそろそろ約束の時間だけど、上官相手にそんなこと言うわけにもいかない。

「冒険者、或いは国の管轄下にある軍またはそれに類する機関に属する者は全員、神官様の加護を授けられている。この点はご存知ですよね?」
「はい。ご加護を頂くことで、魔物と渡り合える力を与えられ、また骨折、四肢切断、脳や内臓の損傷等の致命的な負傷を免れることが出来ます。さらに、魔物との戦いにおいての死の危険から遠ざけられます……あ!」
「気づいたようですね」リーゼッタさまがニコリと笑みを見せた。「でも、せっかくなので続けましょうか。今の答えはまだ満点の答えとは言えませんが、聖職者ではないのでとりあえずそれでよいでしょう。では、今言った『死の危険から遠ざけられる』ということを具体的に言ってみてください」
「はい。ご加護を頂くことで、魔物との戦いの際に命に関わるような状態に陥りそうになると魔物からは姿が完全に隠されます」
「……それから?」

 まだあるのか。えっと……なんだっけなぁ……。うぅ、ティルダめ、僕が困ってる様子を見てニヤニヤしてるよ……。
「すいません、どうなるのでしょうか?」
「魔物から姿を隠されると同時に、他の冒険者などに助けを求めるために、加護を受けている者だけに見える『墓標の幻影』が現れるのですよ。もう少し付け加えるならば、冒険者に限った場合、いわゆる初心者というレベルの間に戦闘不能状態となると、瞬時に職業に応じた町へ蘇生された状態で強制転送されます。ここまではよろしいですか?」
 しまった、そういえばそうだった、と思っても後の祭りか。
「はい」
「その後はどうしますか?」
「えっと、聖職者の力を借りるか、もしくは蘇生魔法の力を封じた『コマリク』という聖水を与えることで蘇生を行います」
「少し違いますね。動けなくなっている者にコマリクを与えることなど出来ませんよ。体にかけてあげればいいのです。それに、出来れば先にこう言って欲しかったですね。「状況によっては、可能であれば真っ先にその場の制圧を行うか、無理であれば応援を呼ぶ」と。行動不能、または死亡状態になっていると言うことは、その者をその状態に至らしめた何者かが近くにいる可能性がありますからね。それに、行動不可能状態でも意思表示が可能な場合があります。コマリクの使用は……」
 あぁ、スイッチが入った。長い話が始まったよ……。いくらなんでもそのへんのことは知ってますよ、リーゼッタ様……。ちょっと長すぎるので適当に聞き流していたら、リーゼッタ様は何かを感じ取ったのか少し言葉に力を入れた。

「そして、ここからが大事な点です!」
「はい!」
 聞き流してるのがばれてたのかな……。僕はしっかりとリーゼッタ様の眼を見つめ、話を聞く姿勢であることをアピールした。
「……いいですか? 聖職者の蘇生魔法は対象の負傷が致命的な状態になっていないことが前提です。つまり、例えば何らかの事故によって腕を切り落とされてしまったとすると、この腕を蘇生魔法や治癒魔法で繋げることは出来ません。それを行うのは医術または魔術です。知識に重点を置いて術を磨いて来た者が正式の蘇生魔法を施せば、或いは切断された部分をつなぐことが出来る場合もありますが、よほど綺麗に切断されている場合だけです。ほとんどの場合綺麗に切断されていることなどありませんから、ほぼ無理です」
「では、何故セシリアセリスミーナを蘇生できたんでしょうか?」
「ですからそこが問題なのですよ。その二人の状態は、聞いた限りでは冒険者の略式の蘇生魔法で蘇生出来るとはとても考えられないのです。死神の件と同等と言えるほどの事件と言っても過言ではないでしょう。確認しますが、この半月間の間でセシリアの蘇生魔法は今回が初めてですか?」
 少し、記憶を辿ってみたら、それほど考え込むこともなく思い出した。
「いえ……、そう、一週間前にも一度蘇生を行っています。そのときも蘇生されたのはセリスでした。ちょっとした油断というところでしょうが、彼女がティラノの一撃を受けて行動不能に陥りました……。背中を巨大な爪で切り裂かれて辺り一面血の海という酷い状態でしたが、この時も墓標は出現していなかったと思います。というよりですね、あの、お恥ずかしい話ですが、私は墓標のオブジェクトを見たことがなくて……。ですので、私は『墓標』と言うのは何かの例えだと思っていたのです」
「うわぁ、マジで? フィオ、お前そこまで温室育ちだったん……あ、すいません、失礼しました」
 僕の言葉はティルダにとってはよほど衝撃的だったようだ。わざわざ「お恥ずかしい」って言ってるのに追撃してくるあたり、幼馴染みということもあってか全く遠慮がない。さすがに黙って聞いていた父上もチラリとティルダを見るほどだ。ところが父上がその後に続けたのはまたしてもと言うか何と言うか、ティルダへの援護射撃だったりする。
「ほっほっほっ、本当のことじゃ、気にすることもない副団長。フィオが昔から純騎士を目指して頑張っておったのは父親たるわしもよく知っておるがな、王宮の中だけで強くなってしまったフィオには冒険者の世界の刺激をもっともっと与えてやらねばならん。如何に普通の冒険者との隔たりがあるのかを知る良い機会じゃて。そうじゃろ? フィオ
「はい」
 よく出来た貴族の息子ならさらに続けて「おっしゃるとおりです父上。私はまだまだ未熟者、皆様のご指導を云々」なんてセリフを言うものだろうけど、めんどくさいのでやめておいた。

 大体、僕が冒険者のことをほとんど知らないのはある意味父上のせいでもあるんじゃないのか? と思うよ。僕の実技の腕前は正に父上の指導の賜物、一対一ならティルダは僕の足元にも及ばない。僕は騎士団に仕官してすぐ、当時戦闘力が最も劣っていた第四騎士団の技術指導官になった。いや、なってしまったんだ。当然父上の名前も影響しているだろうけどね。
 余談だけど、僕は技術指導官として一生懸命がんばった。僕の努力は報われて、第四騎士団は「武芸第一」とのお言葉を国王陛下から賜ることが出来たんだ。もちろん、騎士団のみんなの努力の賜物でもあるんだけどね。
 そんなわけで、僕は別に怠けてたわけじゃない。頑張っていたからこそ結果的に下っ端のうちに学ぶはずのことを全く教わっていないだけなんだ。少しぐらい大目に見てもらいたいもんだ。

フィオ。他にも何か気づいたことがないかおっしゃってください。どんな些細なことでもかまいません。冒険者の目が養われていないということはむしろ素直な目で見ることが出来ると言うものですから、もしかすると逆に好都合かもしれません」
 リーゼッタ様はいつもこうして相手の立場を守りながら話してくれる方で、昔から人望も厚い。僕もリーゼッタ様を尊敬する一人だしね。僕は父上とティルダのことは一旦視界から消してリーゼッタ様に覚えている限りのことを話したいと思った。ただ、残念ながら今までに話した以上の情報となると、せいぜい……
「そうですねぇ……。何か意味がある情報かどうかは分かりませんが、セリスミーナが蘇生されるとき、なぜか引き裂かれた衣服まで直ってましたね。不思議なものだと」
「なんじゃと?」
 リーゼッタ様に話していたはずなんだけど反応したのは父上だった。
「衣服が引き裂かれた? いや、しかし、体が切り裂かれたわけだから道理と言えば道理ではあるが……な。そう簡単に引き裂いたり切り裂いたり出来んはずなんじゃがなぁ。それに、蘇生魔法はあくまでも人体が対象じゃ。衣服を同時に修復するなどという話、聞いたこともない……」
「仰るとおりですルクセン団長。これも興味深い話です。神官様のご加護により身体への致命的な損傷が免れると同じように、冒険者の装備する衣服や鎧等も、特別な祝福や魔力等によって装備している者を守ります。いくら魔物であっても冒険者の衣服をいきなり引き裂くことなどまずありえないのです。もちろん、実際に装備して用いるものですからいつかは修繕が必要になりますし、それ以外にも経年劣化やほころび等によって壊れる寸前という事もありますけどね。でも、そんなことはないのでしょう?」
「えぇ、ミーナはレベル二十一を認められてから*1 すぐに新しい装備に買い換えて挑みましたし、セリスも装備品の管理はしっかりと行っている様子でした」
「なるほど。……二人への神官様のご加護の状態だけではなく、装備していた衣服の状態も確認する必要がありますね」

 少し四人が沈黙した。他の三人の心の中までは分からないけど、少なくとも僕はこう思った。もしも神官様の加護に何らかの問題があり、尚且つ装備していた衣服にも問題があったとしたら、果たして氷の城の十階まで辿り付く事なんて出来るんだろうか? 冒険者についてはほとんど理解していない僕から見ても、それは無理があるような気がする。直接攻撃されなければあるいは可能かもしれないけど、氷の城ではエミスの投げつけてくる氷塊や[アナカム]の氷の矢はなかなか全て避けきれるものじゃない。特に[アナカム]の矢は何らかの魔力でも働いているのかかなりの命中率だし、僕だって何発か食らっているんだ。

「あのぉ、リーゼッタ様」ティルダが遠慮がちに手を上げた。「神官様のご加護や冒険者の装備品についてですが、こんなことを聞いたことがあります。まず、神官様のご加護があってもごく稀に致命的なダメージを負うこともあり、衣服についても滅多にないことですが新品が壊れてしまったり破れてしまったりするそうです。それに、あまりにも信仰心のない冒険者の場合神官様のご加護も完全ではないと言う話も聞いたことがあります。こういったことが偶然重なっただけとは考えられませんか?」
 リーゼッタ様はティルダの考えをしっかりと理解するように深くうなづきながら耳を傾け、そしてそれに答えた。
「なるほど、確かにそういった事故の可能性も考慮する必要はありますね。ただ、冒険者の信仰心に応じて神官様のご加護に差が出るというのはよく聞きますが、実は迷信なのです。神官様のご加護は神官様の信仰に基づいているのであり、加護を受ける側の冒険者の信仰心は神官様のご加護の強さには関係しません。毎週神官様の所に赴いて祈りをささげる冒険者なんて、あまり見たことないでしょう?」
「そうですね、それは確かに」
「それに事故が発生したのだとしても、二人同時に神官様のご加護が効かなかったというのはいささか無理がありますし、同時に衣服も運悪く切り裂かれる偶然が重なるというのはさらに考えにくいでしょう。断言するわけではないですが、ここは素直に死神の影響によると考えたほうが自然ではないかと思うのです。ドーソンが死亡状態になっても墓標の幻影が現れなかったのと同じように……」
 少し、胸が締め付けられる思いがした。そうだ、なんというか謎解きごっこみたいになってたけど、今日現れた死神はおそらく三年前の死神だと言うのは間違いない。リーゼッタ様にとって、戦いはまだ終わっていなかったということなんだ。冷静に話をしてくれているけど、きっと複雑な気持ちなんだろうな。僕は三年前に亡くなったドーソンや他の方達を思ってセオ神に小さく祈りをささげた。ふと気づいたけど、ティルダも同じようにしていた。
 リーゼッタ様は僕達を見て少し微笑んだようだったけど、すぐに表情を改めて話を続けた。

「いずれにしても、何よりも最優先で調査すべきなのはやはり、死神の行方とセシリアの蘇生魔法についてでしょう。冒険者の略式の蘇生魔法をもって、腹を引き裂かれたり三つに切り分けられた者を蘇生することなど絶対に不可能ですし、装備していた衣服を同時に直すことなど、例え我々の正式発動の蘇生魔法でもありえません」
「う~ん……。僕は、蘇生魔法といえばセシリアの蘇生魔法を見たのが初めてだったから、そんなものだと思っていましたけど、違ったのですね……。第四騎士団いる間には蘇生魔法と言うものを見たことがありませんでしたので、セシリアの蘇生魔法が普通なのだと思い込んでしまいました」
「それもそうじゃろうなぁ。魔物討伐にでも出かければ極稀に蘇生魔法を見ることもあるが、そういったことは第二第三騎士団の役割じゃ。第四騎士団に籍を置いている限り、戦争かクーデターにでもならねば蘇生魔法は見られんじゃろうて」
 父上の言うとおり。第四騎士団の通常の任務は城外警護と警察機構に協力する形での治安維持だから、第四騎士団で死人が出る事態というのは余程のことがなければ有り得ないんだ。だから蘇生魔法なんて見たことがないんだ。わかったかティルダ! って言ってやりたいところをぐっと堪えて(多分、言っても墓穴を掘るだけだし)、父上に「はい」とだけ答えた。

「で、フィオ。この件の陛下へのご報告はわしかリーゼッタ様で済ませておくが、お前はこれからどうするんじゃ? 何か出来ることがあるなら協力するぞ?」
「そうですね……。父上、リーゼッタ様。今聞かせていただいた三年前の話と言うのは、セリスたちに話してもいいのでしょうか?」
 父上は即答した。
「わしは無駄に言いふらさねば構わんと思うが?」
 リーゼッタ様は少し考えたようだが、僕の眼の奥を覗き込むように見た後、数回頷いてから言った。
「いいでしょう、私もルクセン団長と私も同じ意見です。貴方が必要と感じるなら話しても構いません。ただし、賢者の事と、デムピアス閣下が実は世襲している事、そして真・神界の存在は可能な限り伏せてください。本当は死神の事も伏せたいぐらいですが、それは無理な話でしょう。何と言っても貴方達は今回の当事者ですから」
「分かりました。これからセリス達に会うことになっていますので、早速話をしてみようと思います。要点としては、セリスミーナの神官様のご加護の状態と装備していた衣服の状態、そしてセシリアの蘇生魔法について、という事になると思います」
 リーゼッタ様はまた僕の考えに一つ一つ丁寧に頷いて、そして微笑んだ。
「大丈夫そうですね。ではそちらはお任せします。私は、神官様と冒険者管理局にセリス達のことを照会してみましょう。それから、三年前のメンバーにも注意を促しておきます」
 僕とリーゼッタ様のやり取りに満足そうに父上が僕の肩を叩いた。
「よし、フィオ、しっかり頼むぞ。お前がもたらした情報はわしが陛下にご報告しておくとしよう。それとな」今度はティルダに向かって言った。「お主はチェイピン殿とグリハラ殿の行方を確認してもらおう」
「はい、分かりました。リーゼッタ様、確認させていただきたいのですが、チェイピン様達の行方について何か分かっていることはあるのでしょうか?」
「彼らはマグダル様のご遺体をレビアにお送りした後、消息不明となっています。精霊話術も通じません。ですので、調べるとすればレビアに到着後の足取りを確認する方法と、ミーナとその周辺を確認する方法があると思われます。誰かに手伝わせましょうか?」
「いえ、大丈夫です。まずは私と部下で調べてみますよ」

「それでは、心して挑みましょう。皆さん、十分に注意してください。私にとっては三年越しの死神再来ですが、さっきも言ったとおり出来ればもう関わりたくないと思うほどの相手です……。もっとも、ケリをつけてやりたいとも思っていますけどね」
 僕は正面に座るリーゼッタ様の目の光が少し変わったのを見逃さなかった。
「ケリ、とな?」
「えぇ、結局死神を追い払ったのは私たちではなくミュレカン神とキュリアスロッドなのですからね。しかもハデス神等のご協力もあったとか……。見かけ上はデムピアス閣下の手柄なのですが、実際にはデムピアス閣下もミュレカン神様に憑依されて意識はなかったわけですからね」
「……なるほど。確かに、エリオデムピアス閣下の性格から考えればけりをつけるという言葉も分からんでもないのぉ。『結局何の役に立ちませんでした』というのを嫌う奴らじゃからなぁ。じゃが、リーゼッタ枢機卿までもがそのようにお感じになっていたとは、いささか驚いた。結果に重きを置くお方じゃと思うておったのでな」
デムピアス閣下と行動を共にしていた時期がありますので、考え方が少し毒されたのかもしれませんね。それに、ミュゼリア女史はもっと強烈に「負けず嫌い」ということもありますが、責任感も強いお方です。マレリア様が植物状態になってしまったことやシャオリンのほとんどが命を落としたことについて、まるで自身に責があるかのように落ち込み、また悔しがっておいででしたから」
 ついさっきまで名前は知っていても天上人だと思ってたような人たちなのに、なんか人間くさいというか、あまり僕らと変わらないんだな……。

「よし」
 父上は立ち上がって三人を見た。続けてリーゼッタ様も立ち上がり、僕とフィオも立ち上がった。
「早速、各自行動に移ろうではないか。三年前、リーゼッタ様やわしの無二の戦友が戦った相手、老体の血が騒ぐと言うものじゃ! フィオティルダ。お主らは冒険者やら一兵卒やらに比べれば鬼神の如き強さであるが、決して油断するでないぞ。三年前とは異なり、死神は既にこちらに現れておるのじゃ。危険を察知したときは何としても必ずわしやリーゼッタ様に連絡を入れるようにせよ。それなくして死神にやられようものなら骨は拾ってやらぬからな」

 そして僕たちは、それぞれの果たすべき役割に従って行動を開始した。
 
 
 
(あれ?)
 部屋を後にして皆と別れた後、ふと『あること』に気がついた。
(死神に殺されたら、灰になって消えるんじゃなかったっけ? もしもセリスミーナが死神に殺されたのなら……なぜあの二人は灰にならなかったんだ?)
 
 
 
 


補足
*1: 冒険者は各自のレベルを勝手に名乗って良いわけではない。冒険者登録を行うと、どの程度の経験を得ているかといった情報が冒険者管理局に自動的に通知されるようになっており、経験とクラスに応じてレベルが定められている。なお、レベルが上がると本人に通知される。同じようなものとして、名声レベルと言うものもある。

 

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WEB拍手
作者がお話を書く活力になります。何卒m(__)m
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