#40 蘇生の謎2 [セシリア]
posted by GEM at 2006年05月01日 23:00
私達が氷の城で見た死神が実は三年前にも現れてたって言う事。その死神と、母さんやガーリン教皇様達が……戦っていたって言う事。そして、その戦いが原因で母さんは今の植物状態になってしまったっていう事。
姉さんがガーリン教皇様に襲い掛かってまで問い詰めても教えてくれなかった真実を、まさかフィオ君の口から聞く事になるとは思いもしなかった。
もちろん衝撃的だった。三年前のあの日の夜明け前に聞こえた母さんの声を思い出して、私は堪え切れなくなって泣いてしまった。だけど、母さんの事がとっても誇らしくも思えた。ガーリン教皇様やリーゼッタ枢機卿様は、母さんに何があったのか何も教えてくれなくて、ただただマイソシアを救った最大の功労者としか言ってくれなかったっけ。機密事項だから言えないのは仕方なかったんだと思うし、そうして黙ってなきゃいけなかった教皇様達も辛かったんだろうなって思った。
ミーナちゃんのお父さんもその時に亡くなっていた。ミーナちゃんは「予想できていた事ですし、物心ついたときから覚悟は出来ていましたから……」って寂しげな微笑を見せた。直接血の繋がりがあるわけじゃない私まで胸が思いっきり締め付けられるほど辛かった。
ミーナちゃんは、武術家の父を持つ娘として父がそのような戦いに身を投じて果てた事を誇りに思うって言っていた。そんなに簡単に割り切れるはずがないって誰でも分かってるけど、本人にそう言われちゃうと、誰にも何も言えない……。
三年前の出来事を聞かせてもらった後、少し落ち着こうって事になった。飲み物と軽食を注文し直すと、暫くの間雑談に花を咲かせた。そんなに長い時間じゃない。でも、少なくとも私は、母さんの三年前の真実を聞いて頭がクラクラするほど駆け巡ったいろんな思い――三年間、苦労だと思わないようにしてた介護の事とか、姉さんが夜、母さんの部屋ですすり泣いていた事とか――をひとまず落ち着けられた。
「という事で、セリスがまだ来ないけど……時間もあまりないし話を続けちゃおう。セシリア、確認したい事があるんだ」
まだ運ばれてきていなかった最後の注文が運ばれてきてなんとなく雑談が一区切りしたところで、フィオ君が再び話を引き戻した。ほんのりお酒に酔って頬が赤くなっているフィオ君。そんな顔で真剣な顔をされるとちょっとかわいいな、なんて思いながら。
「ん? なぁに?」
ジュース(最初、一杯だけお酒を飲んだけど、全然美味しくないんだもん。ジンにあげちゃった)を飲みつつ答えると、何か改めて考えをまとめるようにしてフィオ君が続けた。
「えっとね、冒険者が、えっと、……行動不能状態になった時さ。どうなるのかは分かるよね?」
「やだぁ、これでも聖職者なんだから分かるよぉ。神官様の加護が働いてぇ、敵から姿を隠してくれるんでしょう? それからぁ、味方に助けてもらう為にお墓の幻影が現れるのよね」
「うん……、そうだね(どうせ僕は知らなかったけどね)」フィオ君が何か面白くなさそうにボソッと言った言葉は聞き取れなかった。
「え? 何?」
「いや、なんでもないよ。それで今日の事なんだけど、セリスとミーナが、その、行動不能状態っていうか、かなり派手にやられてたって言うか、その、まぁ、要するに死んでたじゃない? その時、お墓が見えなかっただろう?」
フィオ君はミーナちゃんをチラッと見て気遣うような仕草をしながら言った。
「あ……言われてみれば……」うん、そうだわ。確かに、二人ともお墓の幻影が見えてなかった気がする。「そうよ、夢中だったから気づかなかったわ」
私が言うとジンは組んでいた腕を外して机に肘を突き、首を傾げた。
「いや、ちょっと待ってくれ。お前ら何を言ってるんだ? 墓の幻影もしっかりと見えてたじゃないか」
何を当たり前のことをって言わんばかりに言い放つ。私とフィオ君は思わず顔を見合わせて少し固まった。そしてどちらからともなく再びジンを見た。彼はやっぱり同じ表情で私達を見てる。
「……えぇ!? うそぉ? 本当に?」
私とフィオ君が思わずハモッた。だってだって、本当に見えてなかったはずなんだもん。
「俺にはその反応の方がよく理解出来ないな。あれだけはっきり見えてたのに。ミーナはどうだ?」
「私は……その、必死だったからよく覚えてないです」ミーナちゃんは申し訳なさそうに答えた。
「あぁそうか。それもそうだったな」ジンは再び腕を組んで続ける。「……フィオ、話を変えちまって悪いけど、実は俺も似たような部分で疑問を抱いてはいたんだ。セリスとミーナはかなりひどい重傷を負わされてたよな? でもよ、俺達冒険者には神官の加護がある。その俺達を、だ。いくらなんでも[マカイラ]ごときにあそこまで見事には切り裂けないはずさ。それに俺達冒険者と一般人の大きな違いの一つってのがこの装備だろ? ただの服にしか見えないけど、この服があるからこそ魔物に殴られようが斬られようが最悪の状態にはならずに済んでる。この装備の上から切り裂いたり貫いたりなんて、少なくとも『今までの俺の冒険者としての常識の範囲』じゃあありえないはずだ。なのに、セリスとミーナは装備ごとやられちまってた」
「うん、そうなんだ。って言っても、父上に『(冒険者の)装備はそう簡単に壊れない』って指摘されるまでいまいち分かってなかったんだけどね。騎士団とか軍隊の装備だったら普通に壊れるんだよ」
「そうらしいな。巷じゃあ騎士団の装備ってのはもっとすげぇって思われてるけど」
「冗談! 冒険者と同じレベルの装備を騎士団全員に支給したら税金が跳ね上がって暴動が起こるよ? むしろ、僕は冒険者の装備がこんなに高性能だなんて知らなかったぐらいさ。騎士団員のくせに冒険者の装備を集める輩がいるのが不思議だったけど、使ってみてよく分かったよ」
フィオ君の言葉を不思議そうに聞いているジン。どうしたんだろう?
「フィオ……まさか知らないわけじゃないよな? 冒険者の実力は装備によるところが大きい。だからこそ、その辺の一般人がいきなり冒険者になってもそこそこやっていける。だが国に仕える騎士とかってのはそんな不安定な実力じゃ、どれだけ見事な装備を持たせてもいざと言う時に使い物にならない。国から給料払ってまで毎日毎日訓練させてるのは、身体能力のみでも十分な強さを発揮出来るようにって意味だ。だからこそ価値がある。じゃなきゃ冒険者に反乱を起されたら国なんて一発で潰れちまうぜ?」
「……あぁそうだよ。どうせ僕は実戦経験のない技術指導官一本の堅物さ……」拗ねたような様子のフィオ君に対して、
「まあそれはいいや」触れておいてあっさり切り捨てるジン……。「話の腰を折って悪かったな。で、さっきの墓が見えたかどうかって話に関連すると思うんだが、俺にはミーナが死神とかいう奴にやられたとも見えてないんだよ。俺が見た限りでは、ミーナは[マカイラ]に斬りつけられた。セリスにしたってそうだぜ? 死神が腹の中から現れたって言ったけど、俺には、セリスは[マカイラ]に斬りつけられた後、背後から[アナカム]の矢に貫かれたとしか見えてない」
「……そっかー、ジンには死神が見えてなかったんだもんね。やーい、仲間外れー」
「セシリア……お前って普段はほんっっとにどんな場面でも緊張感ないよな? (ま、そこがいいんだけどさ)」
「え? 何? 」
「なんでもないよ……」
なんか今日の男性陣はボソボソと喋る事が多いなぁ……。フィオ君はそれを見て笑いをかみ殺してるし。ちょっと嫌な感じじゃない?
「ま、とにかく俺は墓の幻影はしっかり見たし死神なんて奴は見てない。死神の事に至っては今でも何のことやらってのが正直なところだ。三年前の話ってのがなかったら、むしろお前らの方が夢でも見てるんじゃないかって思うぐらいだぜ?」
「夢なんか見てないもん!」
「いや、分かってるから……。そんな力いっぱい言わなくてもいいって」
「ぶぅー」
私とジンがそんなことを言っていると、フィオ君が突然頭をかきむしった。青い髪がフサフサフサフサッ! って音を立てたけど、彼の髪ってそこまでやってもすぐに綺麗に戻っちゃうの。うらやましいぐらい。でも、本人は本当に困ってるって言うか混乱してるって言うか……。
「ああー、もう訳が分からないよ! 僕とミーナとセシリアは確かに死神を見た、ここまでは合ってるよね?」
私とミーナは頷いた。
「で、ジンは死神を見てないんだよね?」
今度はジンが頷く。
フィオ君は四人を確認して、指を四つ折っている。
「後二人。クリガンは、多分あの様子だと死神は見てないだろう?」って言って指をまた一つ折って拳骨になり、「セリスも死神は見てないっぽい。っていうか、彼女は真っ先にやられちゃったから見れるわけがない、と。これで六人」言いながら、ピンッて小指を立てた。
「クリガンの事は聞いてみないと分からんが、セリスは間違いなくそうだろうな」
ジンがそう言うとフィオ君はそれに頷いて続けた。
「つまり、ここまでで一つ言える事は、みんなに見えてたわけじゃないって事なんだよ。……なんでだろう?」
フィオ君がジンを覗き込むように見ると、飲み物を口に運んでいたジンは手を止めて、少し驚いたような顔をして言った。
「まさか俺に聞くのか? それを調べるのはお前の仕事なんだろう?」
「えぇ!? 僕の仕事なの!?」
「お前かどうかは知らないけどさ……」
「えー、だって、僕がリーゼッタ様から仰せつかったことは……」思い出すような仕草でうーんと唸るフィオ君。「セリスとミーナの神官様のご加護の状態と装備していた衣服の状態、そしてセシリアの蘇生魔法について、っていう事だよ」
「頼りにならないマスターだな、そうならちゃんと話を誘導してくれよ……。えっと、神官の加護と装備の状態だっけ? でもさ、装備については問題なかったと思う。ミーナ、装備は新調したばかりだったよな?」
ミーナちゃんは素直そうな瞳でジンに答えた。
「はい、まだ買ったばかりです。クリガンさんに露店で探してもらったバシュカーキャミソール*1
っていう服です。同レベル帯の他の服*2
に比べて性能が高いけど、一週間ぐらいでただの服になっちゃうそうです。でも、一週間も経たないうちにもっといい服が必要になるから気にしなくていいだろうって」
「なるほどな。ま、クリガンが調達したんなら不良品ってことはまず有り得ないだろう」
「うんうん」
私もジンの言う事に頷いた。そうなの、ジンの言うとおり、クリガンさんの武具を見る眼は間違いないもん。フィオ君の槍とかを探してきたのもクリガンさんだから、フィオ君も実感として分かってるんだと思う。私と同じように二、三回頷いた。ジンはそれとなく私達が納得したのを確認してから続けた。
「あとはセリスの装備品だが、これは多少あいつと付き合いの長い俺に言わせれば、あいつの装備の手入れは完璧だ。自分で治すって訳じゃないが、ちょっとでも綻びを見つけようものならすぐに修理に出す。そうだろう? セシリア」
「うん。姉さんの装備チェックはマメだよぉー。私の装備品とかも出かける前にはチェックしてくれるんだ」
「そうだろう? だから、ここでもう一つのほぼ間違いないことは、セリスとミーナ、二人の装備についてはとりあえず問題はなかったと考えてもよさそうだってことだな。フィオ、ここまでは大丈夫か?」
「うん……、大丈夫。それにしてもジンってさ、こういうことをまとめるのが上手いねぇ」
フィオ君が感心したように言うと、ちょこっとだけ得意げに答えるジン。
「隊商にいた頃にちょっとな。何か問題が発生する度にのんびり話し合ってたんじゃ商売の機会を失いかねないだろ? だから議論はさっさと済ませるのが普通なのさ」
「へえー……隊商にいたってのは聞いてたけど、ジンの意外な一面を見た気がするよ。盗賊なのにねぇ」
「おいおい、最後のは偏見じゃないか」ジンは組んでいた腕はそのままにフィオ君を指差してから、腕を組みなおした。「冒険者としての分類上『盗賊』と呼ばれるだけで俺は別に盗み稼業って訳じゃない。確かにそういう奴が多いのは認めるがな」
「ジンはアベルの義賊さんだもんね!」
私がジンに言うとちょっと寂しそうな表情を浮かべた。
「ん? いや、アベルでの事は昔の事さ。それに義賊っていうよりも……いや、止めておこう、また話が進まなくなる」
「うん、そうだね」
フィオ君が真顔で言うとちょっと驚いたような表情でジンが言った。
「お前が言うなよ、フィオ」
そこは確かに、私もそう思うかな。フィオ君、頑張れ。
「はいはいー」
「ったく……で、今度は神官の加護の状態だったな?」
「あのさ、ジン。……思ったんだけど、そんなのって僕達で調べられるのかな」
「そうじゃなくてな、フィオ……」頭が痛いって感じのジン。「調べられるわけないだろう? 俺達は神官じゃないんだぜ?」
「そんな言い方しなくたっていいじゃないか……」
フィオ君、本当の事を言われてちょっと傷ついたみたい。でも、今日のフィオ君はどうしちゃったんだろう? どうもさっきから空回りばっかりって言うか……。
「いや、まあ悪かったよ。でもな、じゃあ例えばセシリア」私の方へ語りかけてくる。「聖職者として、もしかして何か加護の事で知ってる事はあるか?」
「うーん、役に立てなくて悪いんだけどぉ、全然分かんない。やっぱり、ご加護のことは神官様にお尋ねするのが一番だと思うよ? ねえフィオ君、要するに、ミーナちゃんと姉さんの加護の状態に何か問題があって、二人が今日みたいに、その、ひどい状態になったんじゃないかってことでしょう?」
「うん。そういうこと。でも、そうだよね、ジンの言うとおりだよね。現状の確認すら僕達には無理なんだから、素直に神官様に聞いてみる事にしよう。ミーナ、今日はもう遅いから、明日、一緒に神官様の所に行ってくれるかい?」
「はい、分かりました」
とっても素直な返事のミーナちゃんにフィオ君はニコッと微笑んで今度は私に言った。
「セリスは今日は来なさそうだからさ。伝えておいてよ」
「うん、分かったー」
思い出したようにジンが言う。
「そういえば、セリス全然来ないな。まあ、あの酒乱がもしも暴れだすとクリガンじゃなきゃ止められないからな、その方がありがたいんだが」
「え? 姉さんって酒乱なの!?」
「妹なのに知らないのか? すげぇなんてもんじゃないぞ、ほんとに。スオミとアベルの酒場じゃあ建物を半壊状態にしちまって今でも出入り禁止だからな」
「は、半壊って……何をすればそんな……」
「そう思うだろう? あいつ酔うととんでもない力を出すんだよ。魔法とかじゃなくて腕力で破壊するんだぜ?」
フィオ君もミーナちゃんも驚いたみたい。でも、私はもっと驚いた。あのどこか冷めた感じがする姉さんが酒乱なんて……。姉さんって家では全然飲まないから、酔った姉さんなんて見たことがないもんなぁ。フィオ君が眼を丸くして言う。
「そうだったの? 知ってれば酒場で待ち合わせなんてしなかったのに……」
「フィオ、お前マスターなんだからそういうことも知ってたほうがいいぞ?」
「うん、気をつけるよ……って、そんなことは今はどうでもいいんだって! えーっと、ここまでをまとめると、まず、お墓の幻影と死神は、何故だか分からないけど全員が見えてたわけじゃない。セリスとミーナの装備については問題はなかったと思われる、と。それから、神官様のご加護については明日神官様をお尋ねしてお聞きしようって事だね。じゃあ次は、セシリアの蘇生魔法だね」フィオ君がこちらを見た。「セシリアに聞きたいんだけど、蘇生魔法ってのは服まで直せるものなの?」
ギクッ! 聞かれちゃった……。
「……やっぱり、おかしいのかな?」
「うん、僕が知ってる限りでは違うはずなんだ」
やっぱり。やっぱりそうなんだぁ……。なんて便利なんだろうって思ってたけど……。
「……実はね、私って今まで、蘇生魔法は一回しか使ったことがないの。しかも相手は姉さんでぇ……。ほら、フィオ君もジンも覚えてるでしょう? 一週間前の火山で姉さんがティラノにやられちゃったじゃない?」
「うん」
「そうだったな」
二人が答えた。
「私、あの時に初めて蘇生魔法って使ったの。私って冒険者になった最初の頃から、姉さんとクリガンさん、それからジンの三人とずっと一緒だったでしょ? フィオ君は前回の火山から一緒だったわよね。でね、私が行動不能になる事はあってもぉ、みんなは絶対って言っていいぐらい行動不能にならないでしょう? だからぁ、私が蘇生魔法を使うことなんて、ほとんどありえないじゃない? ねえ、ジン?」
「んー……言われてみれば、確かにそうだな」
「でしょー? 装備が直っちゃったっていうのもね、一週間前の姉さんの時はそんなに激しく破けてた訳じゃなかったけど、蘇生した時にチラッと思ったのよ。『あれ? 装備品まで直せるの?』って。でも狩り中でそんな事を言ってる場合じゃなかったしぃ、直せるならその方がいいや、てぐらいにしか思ってなかったの」
「うーん、つまり何かの自覚があるわけじゃないのか……。一体、どうなってるのかなぁ」
フィオ君はまたしても困ったような顔をした。でも、それも仕方ないのかもしれないわよね……。当の本人である私が、なんで装備品まで直っちゃったのかよく分かってないんだから。
「なんだ? ってことは、装備まで直っちまったってのはあの火山の時からだったのか?」
「そうなの、ジン。別に隠してたわけじゃないんだけどね」
「いや、別にいいんだけどさ。しかしまぁ、なんかアレだなぁ」ジンが呆れたような仕草で言う。「改めて考えてみればさ、このパーティーも『なんちゃって冒険者』の集まりだよな。どこのギルドでも似たようなもんだけど、蘇生魔法で装備品が直るなんて無茶な話を『直せるならその方がいいや』なんて、考えてみれば無茶苦茶だもんな。なあ、フィオ? お前もそう思うだろう?」
ジンがそう言った途端、フィオ君の表情が険しくなった。肩を震わせて明らかに怒りだしてる。 でも、何でだろう? ジンはそんなにひどい事は言ってない気がするんだけど……。
「ああ、そうさ、悪かったね! どうせ僕は名前だけの純騎士で実戦経験と知識が不足してるんだよ!」
え? フィオ君、一体どうして? ジンは訳が分からないって感じにフィオ君に言った。
「……なんでそこでお前がキレルんだよ。別にお前だけの事を言ってるわけじゃないじゃないだろう? それとも、もしかしてそのリーゼッタとか言う偉いさんに何か言われたのか?」
そう言われたフィオ君は俯いて唸りだした。余程きつい事でも言われたのかなぁ。それとも余程恥ずかしい思いでもしたのかも。こういうときの男の子って、女が余計な口を挟むと火に油を注ぎそうだから、黙ってようっと。
「……うー……。くそ! あーあ、なんか今日はもう、あらゆる自信がどんどんなくなってくよ! ジン、マスター変わってくれない?」
「はぁ? おいフィオ、何があったんだか知らないけどさ、ギルドのマスターが自信なくしてどうするんだよ。知らなかったならこれから知ればいいだけだろう? そう落ち込むな、フィオ。頼りにしてるんだからさ」
「頼りにって……何をさ?」
「……細かい事を言う男だなぁ……。頼りにしてるって仲間に言われたら胸を張って『任せとけ!』って答えればいいんだよ。それがギルドマスターであり、リーダーってもんさ。わかるな?」
ジンがフィオ君の肩に腕を回して諭すように言うと、何か吹っ切れたようにフィオ君がガバッと顔を上げた。
「おう! もーどうにでもなれさ! 任せとけぇ!」
「その意気だ! ホレ、飲め」
そう言ってお酒の入ったグラスを勧めるジン。フィオ君も単純だなぁって思うけど、ジンって、なんか場馴れしてるなぁ……。フィオ君は勧められたお酒を一気に飲み干した。
「よし! 続けるぞぉ!」
「頑張れ、フィオ!」
私が言うと、ミーナちゃんも続けてフィオ君を励ました。かわいーい笑顔で。
「頑張ってください、マスター!」
「うん! 頑張るよ! ミーナ」
……あれ? あれれ? ねね、フィオ君、私は?
んー、ま、いっか。


